背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜

* * * *

 ここのところ、尚政からの連絡はほとんどがメールだった。そのことで一花は、尋人が尚政にアメリカ行きのことを打診したのだと察した。

 一花は尋人が自分のところに来たことを、尚政には秘密にしていた。彼の本心を知りたかっから、余計な情報は耳に入れるべきではないと思ったのだ。

 尚政が今頃いろいろ考え込み過ぎて落ち込んでいるのではないかと心配になる。でも違う選択肢を選んでいる可能性も否定出来ない今、一花は尚政からの連絡を待つしかなかった。

 その時尚政から着信があり、一花は何も知らないフリを装いながら明るく電話に出た。

「もしもし」
『あっ、一花?』
「うん。久しぶりに先輩の声が聞けたから嬉しいな」
『うん……俺も……』

 なんとも含みのある間があく。次はなんて言おうとしているの?

『あのさ、四月からブルーエンに転職する事が決まったんだ。だから今月末にはそっちに引越す予定』
「本当? 先輩戻ってくるの?」
『うん……それでさ、その時に一花に大事な話があるんだ……』

 来た。とうとうこの時が。一花は唾をごくりと飲み込む。一呼吸ついてから口を開く。

「わかった」

 電話を切る。心臓が早鐘のように鳴り響き、息が苦しくなった。一花はスマホを握りしめて空を仰いだ。

 どうか私が私の望む未来が待っていますように……。
< 121 / 136 >

この作品をシェア

pagetop