背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
* * * *
電光掲示板に、尚政の乗る飛行機の到着が知らされる。一花は到着ロビーで尚政が出てくるのを待っていた。人の波を目で追い続ける。
どれだけ待ったかわからなかったが、尚政の姿が見えると嬉しくて涙が溢れた。二年前に別れた時より髪が短くなって、また少し大人になった気がした。
一花に気付き、尚政が笑顔で手を振りながら走ってくる。
「一花! えっ、な、なんで泣いてるの⁈」
「だってやっと先輩に会えたから……なんで二年も帰ってこないのよ〜!」
「ご、ごめんね……! 忙しくてつい……」
一花は尚政の表情は見ようとはしなかったが、衝動的に抱きつく。先輩の声、先輩の匂い、先輩の温かさ、全てが懐かしく感じる。
尚政も一花の体を抱きしめる。
「ただいま」
「……おかえりなさい」
ふと見上げると尚政は笑っていた。今は考えるのはやめよう。しばらくはこの幸せに浸っていたかった。
* * * *
リムジンバスに乗り込むと、二人は後方の席に並んで座った。その時に尚政の荷物の少なさに気付く。
「荷物ってこれだけ?」
「うん、元々少なかったからね。全部処分してきちゃった」
「そうなんだ……。今後は実家から通うの?」
「しばらくはね」
しばらく……その含みのある言い方が気になったが、わざとそこには触れなかった。
すると尚政が一花の頬に手を触れる。
「一花、また大人っぽくなったね。当たり前のようにメイクしてるし。来月からは洋菓子店に就職だっけ? あの中学生だった一花が、とうとう社会人になるんだ〜!」
「そうだよ。もう二十歳になったんだから……一応大人の女の扱いをしてもらわないとね」
一花の言葉に尚政は少し戸惑いを見せた。頬に触れていた手がビクッと震え、視線を逸らす。その途端、一花には尚政が言おうとしていることがわかったような気がして悲しくなった。
やっぱり《《その》》答えを選んだのね。
どうして好きなだけじゃダメなんだろう。大人になりたいと思ったのに、大人はいろいろな制約やしがらみが多くて、自由ではいられなくなる。
一花は口を閉ざし、こぼれ落ちそうな涙を隠すように尚政の肩に寄りかかった。