背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
もし話にならなかった時に、最後の手段として考えていたものがあった。先輩が受け入れてくれるかわからないけど、もう私にはこれしか思いつかない。
「わかった……でも最後にお願いがあるの」
「うん……なんでも言って」
「……これが最後でいいから、今日一日恋人ごっこをして」
「うん、わかった……」
「それともう一つ」
一花は一息ついてから口を開く。
「最後に先輩のものになりたい……」
尚政が驚いたように一花を見た。
「そ、それは……」
「なんでも言ってって言ったじゃない。それに私、もう二十歳になったの。先輩が気にしてた犯罪なんかじゃない」
一花の思いがけない言葉に尚政は顔を強張らせ、苦しそうに下を向く。
「最後っていうのなら、この気持ちに決着をつけさせて……。じゃないと私、きっと前に進めない」
「……わかった……」
一花はホッと胸を撫で下ろす。こんなことを口にしたけど、経験がない一花にとって本当は不安しかない。しかし尚政に自分の気持ちを伝えるにはこれしかないと考えていた。
前に先輩に言ったことがある。先輩となら本望って。その気持ちは今も変わってないし、本当はもっと前にそうなりたかった。でも先輩はそういうところは真面目だし、大事にしてくれているんだと思えば嬉しかった。
断られることももちろん想像していた。その時はもう先輩の中に確固たる意思があるのだと諦めるつもりだった。だけど受け入れてくれた時は、まだ私への気持ちがあるのだと考えた。きっと心のどこかで迷っているに違いない。まだ望みがあると思いたかった。
頭の中に尋人や藤盛の姿が浮かぶと、一花は気合いを入れ直す。応援してくれる人がいると思うと、頑張れそうだった。
私は私に出来ることをするだけ。私の想いはそんな言葉で諦められるほど弱くないの。