背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
* * * *
パンケーキを食べ始めた頃から、尚政の緊張が少しずつ解け始めていた。年甲斐もなく制服を着てデートをしたあの日、想像以上に楽しかったのを思い出し、つい笑みが溢れる。
ゲームセンターでは、数は減ったが後向前太郎のグッズが置いてあった。
「まだ好きなの?」
「うふふ。たぶん一生好きだと思う」
その中で一花が欲しがったのは目覚まし時計だった。一花が応援しながら尚政はクレーンゲームと真剣に向き合う。誰かと一緒にやるのって、こんなに楽しかったっけ。不思議と二年のブランクが埋まっていく気がした。
ようやく獲れた時には、一花はこれ以上ないくらい喜んだ。あっという間にあの頃と同じ気持ちに戻れた。
「さすが先輩!」
「まだ腕は鈍ってないみたい」
嬉しそうに目覚まし時計を袋に入れる一花を、尚政は眩しそうに見つめた。こんなことをしていると、どんどん離れがたくなる。この先もずっと一花と一緒にいたいと思う自分もいる。
「じゃあ次は指輪ね!」
「……本当に買うの?」
「だって先輩、今年のは帰ったら買いに行こうって言ったでしょ? 遅れた分、かわいいの選んじゃうから」
一花が入った店はカップルに人気があるようで、他にも数組の男女がケースの中に並ぶアクセサリーを見ていた。
尚政は一花の後に付くように歩く。一花が足を止めた場所を覗き込むと、誕生石のアクセサリーが月毎に並んでいた。
「二月の誕生石って何?」
「ほら、これ。アメジスト」
一花は紫色の宝石を指差した。すると店員が近付いてくる。
「アメジストをお探しですか?」
「あっ……私の誕生石なんです」
「そうでしたか。アメジストは愛の守護石って言われてるんですよ。真実の愛を見極めるサポートをしてくれたり、大切な人との絆を深めてくれると言われてるんです。今のお二人にぴったりかしら?」
そう言われて二人は顔を見合わせると、苦笑した。今日で最後なのにね……。
「あの……これ見せてもらってもいいですか?」
ピンクゴールドのリングの中央に、アメジストとダイヤが配置されたものを指差す。店員がケースから取り出すと、一花の前に置いた。
「……かわいい……」
一花は自分の指にはめると、うっとりと見つめる。
「これにする?」
尚政に言われ、彼の顔色を伺いながらも小さく頷く。これが最後のプレゼントになるのだろうか……。そう考えて二人は黙り込む。