背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
会計を済ませて店を出ると、一花はいつものように尚政に手を出した。しかしそこには以前渡した指輪がはめられている。
困った様子の尚政に、
「重ねていいから……」
と呟く。
言われた通りに、ダイヤの指輪の上に重なるようにアメジストの指輪をはめた。
「ありがとう……」
「うん……」
一花は指輪に口づける。そして尚政にそっと体を預ける。
「先輩……そろそろ行こうか?」
二人の間に緊張感が走る。
「一花……本当に後悔しない? このまま恋人ごっこで終わっても……」
話の途中だった尚政にキスをする。その先を言わせないように唇を塞いだ。
「今更そんなこと言わせないんだから……」
一花が真っ直ぐ尚政を見ると、彼は目を閉じて下を向いた。
「……俺初めてだからちゃんと出来ないかもしれないよ」
「……逆にもし初めてじゃないって言われたらどうしようって思ってたから安心した……」
その言葉を聞いて尚政は吹き出した。そしてふっと肩の力が抜ける。この言葉選び……一花が一花だと思うとホッとした。
「私だって初めてだもん……。でも初めては先輩じゃなきゃって思ってた。だから……初めて同士は上手くいかないかもしれないけど、それでもいいの。最後に先輩のものになれたって思うだけで幸せだから……」
一花の言葉は不安を払拭してくれる。尚政は一花をぎゅっと抱きしめた。自分勝手な俺でごめんね……。
「一花の全部を俺のものにさせて……」
「うん……」
二人は手を取り合うと、ゆっくり歩き始めた。