背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
「これ、食べていい?」
「もちろんです。お口に合うといいのですが……」
「あはは。この間もそう言ってたよね」
箱の中には生チョコがレンガのように綺麗に並んではいっていた。それを一つつまんで食べると、思わず笑みが溢れる。
「お口に合うどころか、めちゃくちゃ美味しいんだけど」
「本当ですか? 良かった〜!」
両手を合わせて喜ぶ一花を見て、尚政は柴田の言葉を思い出す。
『何かしてあげたくなっちゃうんだよなぁ』
その意味がわかるような気がした。
「一花ちゃん、もし良かったらチョコのお礼がしたいんだけど、何かして欲しいこととかない?」
尚政の言葉に、一花が驚いて固まる。して欲しいこと? そんなことを聞かれるなんて夢にも思わなかった。
でもなんて答えるのが正解なのだろう。本音を言えば、お友達になりたい。デートがしたい。でもそれは先輩に迷惑がかかるから、口に出すことは出来なかった。
悩みに悩み、尚政が元バスケ部ということを思い出し、ようやく一つ思いついた。
「バ、バスケを教えていただけませんか? 私運動がダメダメで、体育でバスケをやってるのにみんなに迷惑ばかりかけちゃってるんです。元バスケ部の先輩に教えてもらえたら嬉しいかな……」
意外な返答に、尚政は少し拍子抜けした。確かにちょっと違うタイプの子だな。そして笑い出す。
「なんか一花ちゃんっていいね。俺の周りにはいない感じ」
「はっ……?」
「なんでもない。俺バスケは出来るけど、体育館を堂々とは使えないんだ。だからさ、休みの日にどこかの公園とかでもいい?」
「も、もちろんです!」
「じゃあ決まり。連絡取りやすいようにIDとか教えてもらえたら助かるんだけど」
「あっ、ケータイ持ってきてない……」
「じゃあ俺のIDを教えておくからさ、後で連絡してくれる?」
「わかりました!」
一花のやけにハキハキした受け答えに、尚政は不思議と元気をもらえるような気がした。
尚政は立ち上がると、一花に手を差し伸べる。一花は戸惑いながらもその手を握ると、一瞬体が宙に浮いたような感覚に陥る。
なんだかやっぱり高校生って大人だな……同級生じゃこんなことしてくれないもの。
「チョコ、ごちそうさま」
「こちらこそ、食べていただいてありがとうございました」
やっぱり先輩は素敵。また好きなところを見つけてしまった。
高等部の教室に戻って行く尚政を、手を振りながら見送る。一花の胸はいつまでも高鳴りが止まなかった。