背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
* * * *

 本当はこんなことダメなんだってわかってる。自分自身を抑えられなくなる。それなのにどうして了承したんだろう。

 本当はずっと前から一花を求めていた。彼女の成長とともに膨らんでいく想像を、理性で押し殺してきた。だから一花の言葉に勝てなかったんだ。

 こんなの都合が良すぎる。別れを切り出したのに、欲望のまま彼女を抱いている。でも数時間後には別々の道を行く。

 本当は今でも悩んでるんだ。この選択は間違っていないのか。本当はこのままの関係を続けたって良いじゃないかと思う自分もいる。でもいつ帰れるかわからないのに、彼女を縛りつけるわけにはいかなかった。

 尚政は一花の体中にキスの雨を降らす。一花は自分のものであるかのように。

 彼女の吐息が耳に聞こえるたびに、どうしようもないやり場のない気持ちが溢れそうだった。

「一花……もう一回……」

 尚政が耳元で囁くと、一花は小さく頷いた。再び一花の中に身を沈め、尚政は大きく息を吐いた。

 その瞬間、一花は尚政の首に腕を回し、彼にキスをする。

「先輩……好き……大好き……」

 その言葉に尚政は衝撃を受ける。泣きそうになり、一花から離れようとしたが、彼女の足が体に絡みついて離そうとはしなかった。

「……ずっとずっと好きだった……今も先輩が大好き……愛してる……」
「ダ、ダメだよ一花……! そういうのはダメだ……」
「でもこれが最後なんでしょ? 諦めろって言うんでしょ? それなら言わせてよ……私はこんなに先輩を好きな想いで溢れてるのに、もう言うなって言うんでしょ? だったら……最後くらいは……今日だけは言わせて……お願い……」

 尚政の顔が辛そうに歪むのがわかった。それでも一花に与えられた時間は今しかない。

「……今だけだよ……」

 尚政が一花の体を抱きしめるように覆い被さったため、顔は見えなくなってしまった。でも一花は尚政の頭を抱きしめ、髪の中に指を滑り込ませていく。首元にかかる吐息がくすぐったい。

「先輩の声が好き……すぐに聞き分けられるの。先輩の手が好き……何度も私の頭を撫でてくれたよね。すごく安心した……。外ではいつも手を繋いでくれたよね……先輩の手って意外とひんやりしてるの、知ってる?」

 尚政が首を横に振る。一花はそのまま尚政の顔を引き寄せるとキスをした。

「優しくて面白くて真面目で、でもちょっと天邪鬼で甘えん坊な先輩も大好きよ……」

 ふと一花の目から涙が出てきた。

「私が先輩のことを幸せにしてあげたかったのにな……私にもっと自信があって、先輩を夢中にさせるくらいの魅力があったら違ったのかな……ごめんなさい……」
「違う! 違うよ、一花……。一花はちゃんと俺を愛してくれた……悪いのは俺なんだよ……。一花を受け止める度量がなかっただけ。君みたいな良い子は俺にはもったいないんだ。俺なんかよりずっと良い男を見つけて幸せになってほしい……」

 反論しそうな一花の唇を塞ぐと、何度も何度も深く彼女の中へと身を沈めていく。二人は意識がとぶくらい愛し合った。
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