背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
* * * *

 星がきれいな帰り道だった。先輩と手を繋いでここを歩くのもこれが最後と思うと切なくなる。歩くたびに下半身の痛みを感じ、寂しさを増長させた。

 言いたいことは言ったはず。これで先輩の気持ちを引き止められないのなら仕方ない。

「先輩……今日は私のお願いを聞いてくれてありがとう。おかげですごく晴れ晴れとしてる。最後の夜にぴったりな気分」

 尚政は黙ったまま頷く。

「私ね、先輩のことを好きになって、いろんなことを知ったの。楽しかったり、悲しかったり、嬉しかったり……私は恋に向いてないって思っていたから、そんな気持ちになれたことは奇跡みたいだった」

 今もあの体育祭の日のことを思い出す。転んで恥ずかしかったけど、あれがあったから先輩と出会えたの。

「私はたぶん、一生先輩のことが好きだと思う」

 それを聞いて尚政は一花の方を向く。

「一花、それは……」
「諦めるとは言った。でもこの先先輩以上の人に出会える自信がないの。もし誰かと出会っても、きっと先輩が心から消えることはないと思う。それで一生独身になったって後悔はないし……うん、素敵な恋だった」
「俺は……一花には幸せになってほしいんだよ……」
「生き方は人それぞれでしょ? 結婚が全てではないし。私の人生よ、私らしく生きればいい。たとえ女々しくても、先輩を好きでいることを選んだっていいでしょ?」

 話しているうちに、あっという間にいつもの角までたどり着く。二人は向かい合い、見つめ合う。

「これが本当の最後かな……」

 一花は呟くと、尚政に軽くキスをした。

「……じゃあいってらっしゃい。バイバイ」

 するとそのまま家の方向へと走り出した。尚政は慌ててその手を引き止めようとしたが間に合わず、擦り抜けてしまった。

 一花の背中をただ呆然と見つめた尚政の目から涙が溢れて止まらなくなる。これで良かった……どうしてそう思えないんだろう。

 大切なものを手放してしまった喪失感に襲われ、尚政はいつまでもその場に立ち尽くしていた。
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