背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
背の高い木が等間隔に植えられた遊歩道の横には芝生広場があり、親子連れがテントを張ったりシートを敷いて、楽しそうに遊ぶ姿が見える。
「ここって来たことある?」
「小学生の頃に遠足で来たことはあるんですけど、それ以来ですね」
「そうなんだ。俺はよく仲間とバスケしに来たりするんだけど、こんな朝から来るのは初めてかも」
しばらく歩いて行くと、背の高いフェンスに囲われたバスケット専用のコートに到着する。
まだ誰もいないコートに入り、ベンチに荷物を置くと、尚政はゆっくりとドリブルを始める。
「さて、何から始めようか。ちなみにそれってスカートじゃないよね?」
「大丈夫です! 中はショートパンツになってるので!」
「了解。まぁ授業のバスケだしね、とりあえずドリブルとパスとシュートあたりを練習しようか」
「は、はいっ! お願いします」
尚政は少し離れたところから、ボールを投げる。一花はそれをキャッチした。
「じゃあそこでまずドリブルしてみて」
「はいっ」
言われたようにドリブルをする。
「じゃあそのままこっちに来られる?」
「それは無理です! ボールと一緒に動けないんです」
それを聞いて尚政は笑い出す。
「出来ないことをちゃんとわかってるならいいと思うよ」
尚政は一花の背後にまわって手を重ねると、一緒に弾むボールを突く。
「そうそう。今度は反対の手にボールを移動するよ」
ボールが地面を跳ね、反対の手に当たると、そのままドリブルを始める。
「一度手に持ってから再度ドリブルをしちゃうとファールを取られる可能性が高いからさ、この動きが自然と出来るといいね」
一花の耳に尚政の言葉は届いていなかった。密着した体と、触れたままの手が気になって、一花の頭は爆破寸前だった。
しかも尚政が話すたびに耳にかかる息遣いが、一花の心拍数を更に上げていた。
「一花ちゃん?」
「す、すみません! 大丈夫です! ちゃんとやりますので!」
顔は見えないが、耳まで真っ赤になった一花を見て、尚政は思わず笑いを堪える。やりすぎたかな。一花ちゃんを見てると、なんかからかいたくなるんだよな……。
それでも一生懸命ドリブルの練習をする一花の姿を見ていると、真面目に教えようという思いも芽生えてくる。
ドリブルをしながら走れるようになると、一花は嬉しそうに尚政を見た。
「出来ました! これでちょっとはチームの役に立てそうですね!」
「うん、この短時間ですごいすごい! じゃあ休憩したらシュートの練習もしようか」
一花が頷くと、二人はベンチに戻って行った。