背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
* * * *
一花からのメールを見ながら、尚政は無意識の内に笑顔になる。
必ず三日おきに届くのは、一花なりの迷惑にならない日数なんだろうなと思うと、なんだかいじらしくなる。いつの間にか彼女からのメールがこんなに楽しみになってるなんて、誰にも言えなかった。
ただ言わなくても察知している人間はいたが……。
「何をそんなにニヤニヤしているのかな? 千葉くん。もしや調理部が今日トリュフチョコを作るということを知ってる感じだね?」
突然現れた柴田の姿に驚き、椅子から落ちそうになる。
「今回はバレンタインに向けて、ちょっと早めに練習したいという要望で決まったんだよ」
尚政も柴田もエスカレーターで大学への進学が決まっていたため、三学期も普通に登校していた。そのため柴田は部長を引退しても、調理部に通っているのだ。
「聞きたかったんだけど、一花ちゃんとお前はどういう関係なわけ? 付き合ってはいないんだよな?」
「付き合ってたら犯罪でしょ。まぁ仲の良い友達みたいな感じかなぁ」
「手を出してたら、俺と園部がお前をボッコボコにしてやるところだよ」
「やめてくれ、冗談に聞こえないから」
「当たり前だ。俺は本気だからな。しかし友達ねぇ。友達のためにあんなにウキウキしながら料理してるのかぁ」
「……何が言いたいわけ?」
「別に〜」
そう言ってから、柴田の表情は真剣になる。
「一花ちゃん、すごくいい子だろ? 中学生なりに一生懸命恋してるよ。だからさ、お前はどうなのかなって思って」
「……実は一花ちゃんにさ、自分に自信がついたら告白するから待ってて欲しいって言われてんだよね」
それを聞いて柴田が吹き出した。
「一花ちゃん、そんなこと言ったの⁈ マジで⁈ それでお前はなんて返事したの?」
「えっ、まぁ普通に待ってるって言った」
「待つの⁈ お前が⁈」
爆笑している柴田を、尚政は不機嫌そうに睨む。
「俺さ、恋愛とかするつもりないんだよね。なんか面倒っていうか、トラウマになってるっていうか。でも一花ちゃんなら……長い目で見て可能性はゼロじゃない気がしたんだよ。まぁ一花ちゃんの方が、いつか俺なんか愛想尽かすと思うけどさ」
しかし尚政の発言に、柴田は驚いたような顔をする。
「へぇ……なんかちょっと前向き発言じゃん」
「後向き発言もしてるけどね」
「だとしたら、一花ちゃんにあのことを話してみてもいいんじゃないか? あの子ならお前のモヤモヤを晴らしてくれる気がするけどな」
「まぁ……考えてみるよ」
実は尚政も今まで何度か話してみようかと思ったが、そのたびに心にブレーキがかかる。なんで一花ちゃんに話す必要がある? 話したいと思った理由はあるはずなのに、何故か考えないようにしている自分がいた。