背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜

 図書館から出ると、駐輪場に尚政の自転車を取りに行く。そこで作ったお菓子を渡すのが通例となっていた。

「今日はトリュフチョコなんです。ガナッシュの味が濃くて、たぶん先輩好みかな。ちょっと早めのバレンタインチョコみたい」

 尚政は透明の袋に入ったチョコを一粒取り出すと、口の中に放り込む。尚政が満面の笑みを浮かべたので、一花はホッとする。

「一花ちゃんのお菓子、本当に美味しいね。いつもありがとう」

 その言葉が聞けるだけで、一花は幸せな気持ちになれた。

「いつも終わるまで待ってくれてありがとうございます。じゃあまた連絡しますね」

 尚政が自転車登校だったので、お菓子を渡したら別々に帰るというのがいつもの流れだった。だから今日もそのつもりで帰ろうとすると、尚政が一花の手を引いた。

「ちょっと待って。今日はバス停まで一緒に行くよ」
「でもバス停はすぐそこだし……」
「じゃあバスが来るまでちょっとおしゃべりしない?」

 駐輪場の入り口から五十メートルほど歩いたところにバス停はある。バスが見えてから走っても十分間に合う距離だった。

 二人は駐輪場の壁に寄りかかるように並んで立ったが、一花は突然おしゃべりをしようと言われ緊張していた。何か大事な話だろうか……。
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