背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
デートだから気を遣ってくれてるのかな……それともまたからかってる? 繋いだ手から心臓の音が伝わってしまいそうでちょっと怖い。
「一花ちゃんの降りる駅だと何もないから、一つ先まで行っていい? 帰りはちゃんと送るから」
「もちろんです!」
一つ先まで行けば、雑貨屋や若者向けのお店が立ち並ぶエリアに出られる。一花の家の近くは商店街になっているため、デートならば一つ先まで行ったほうが良かった。
「でも、制服デートなんてよく思いついたね」
「漫画の中とかで見るじゃないですか。前までは何とも思ってなかったのに、先輩の制服姿がもう少しで見納めって思ったら……」
「したくなっちゃったの?」
尚政に言われて、一花は恥ずかしそうに顔を両手で覆う。
「本当は私もブレザーだったらなぁって思うんです。それなら先輩の隣に立ってもおかしくないんじゃないかって……。でも私ね、このセーラー服と高校のブレザーが着たくて受験したから、どっちの制服も好きだし、このセーラー服で先輩との思い出が作れたらすごく嬉しいなって思って」
一花が笑うと尚政も自然と笑顔になれた。緊張しているわけではなかったが、戸惑いがないといえば嘘になる。
でもお互い初めて同士、無理しなくていいんじゃないかとも思えた。
「じゃあ一花ちゃんが高校生になったら、俺がこの制服着てデートしよっか? でも二十歳で制服着たらイタイ?」
冗談で言ったのに、一花はその言葉のまま受け取ってしまう。真剣な目で尚政を見つめる。
「いいんですか? 約束ですよ?」
「まぁ……一花ちゃんが嫌じゃなければね」
「嫌なわけないです……」
「でもその時に一花ちゃんに彼氏がいたら、俺はお役御免だからね」
先輩はいつも私が近付くのを間近で止める。寄れそうで寄れない距離が切なくなる。ただそれがわかったからこそ、適度な距離を保てばそばにいられると思った。