背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
* * * *
尚政がバスの降車ボタンを押し、停留所にバスが停まる。
尚政に手を引かれてバスを降りると、お店が立ち並ぶエリアへと歩き出した。
その時尚政が一花を振り返り、髪をじっと見る。
「俺からも一つお願いしていい?」
「なんですか?」
「髪の毛を下ろした一花ちゃんが見たいなって思って。三つ編みほどいてもいい?」
一花の返事を待たずに、尚政の指は三つ編みのゴムを取ってしまう。三つ編みの跡が残り、緩やかにウェーブがかかった髪が肩へと流れていく。
「思った通り。やっぱり一花ちゃん、下ろした方がかわいいよ。なんかちょっと大人っぽくなるね」
「そ、そうですか……?」
「今日のデートはこれで行こう!」
一花は頷く。あんなに何度も結び直した三つ編みだったが、尚政に褒められたことが嬉しかった。
「で、一花ちゃんには制服デートのプランはあるの?」
「とりあえず定番の食べ歩きと、一緒にお店巡りくらいしか思いつかないです……」
「それでいいんじゃない? デートって、一緒にいることが楽しいわけでしょ? 行き当たりばったりでいいと思うよ」
一花は心を読まれたような気持ちになる。
本当は先輩と一緒にいるだけで楽しいの。先輩が同じ考えでいてくれたことが嬉しい。
「先輩、私あそこのジェラートが食べたいです」
「……今二月なのに? 寒くない?」
「冬に食べるアイスも美味しいですよ!」
「じゃあ……食べてみよっか?」
いつも一花の望みを叶えてくれる。その優しさの理由はわからないけど、先輩を好きな気持ちは日に日に募るばかりだった。