背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
* * * *
二年生の席に戻った一花は、頬を両手で押さえながら、高鳴る心臓を静めようと大きく深呼吸をする。
高等部は校舎も違うし、部活の先輩以外とはほとんど関わることはない。だからこそ、二年生になっても初対面の人もいる。
あんな素敵な人がいたんだ……。でも高校生だし、三年生だし、きっと会うこともなく卒業しちゃうんだろうな……。
先輩の手が触れた頭の感触が、今もまだ残っている。とても優しい手だった。笑顔も声も、たとえ外面でもいいと思えるほどのときめきだたった。
「あっ、一花! 大丈夫だった?」
一花を見つけた芽美と智絵里が、心配そうに駆けてくる。
「うん、さっき消毒してもらったから大丈夫」
「……一花、顔赤いけど熱とかない? もう一度医務室に行く?」
「そ、それはダメ!」
一花の慌てぶりが珍しく、二人は顔を見合わせる。
「平気〜とかじゃなくて、ダメってどういうこと?」
「そ、それは……」
口ごもる一花を見て、芽美は何かを閃いたのか、ニヤッと笑うと、
「ちょっと医務室見てくる! 一花を押さえておいて!」
と言って医務室まで走って行ってしまった。
あっという間の出来事に、一花は何も出来なかった。慌てふためく一花の横で智絵里がニヤニヤしている。
すると芽美が興奮した様子で戻ってきた。やや食い気味に智絵里が話しかける。
「どうだった⁈」
「めっちゃイケメンの高校生がいた!」
「えっ! じゃあ私も見てくる!」
入れ替わるかのように、今度は智絵里が医務室に向かって走り出す。
芽美は笑いを隠せず、顔を真っ赤にしたまま下を向いている一花に話しかける。
「なになに? あのイケメンの先輩にときめいちゃったの?」
そして智絵里も戻ってくる。
「すっごくかっこいい先輩じゃん! あんな人がこの学校にいたなんて知らなかったよ〜!」
「でしょ? 私もびっくりした」
二人は一花の肩を両側から抱くと、顔を近づけた。
「好きの基準がわからなかった一花ちゃんが、とうとうときめいたと?」
「で、でもちょっと会話しただけだから……」
「だとしても、一花の第一関門を突破したわけだからね、すごいじゃん」
「……でも三年生だし、私なんか相手にされないよ。校内でも会える可能性は低いし……」
「そっか……せっかく一花がときめいた人なのになぁ。残念だね」
「まぁもしかしたら校内で会える可能性もあるしね、先輩センサーを張り巡らせておこうか」
三人は笑い合う。
また会えたら嬉しいな……一花はポケットの中の絆創膏にそっと触れ、心の片隅でそう思うのだった。