背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
「俺はストロベリーで。一花ちゃんは?」
「ピスタチオをください」

 尚政は興味深そうに、一花の選んだピスタチオを見る。

「美味しいの? 俺ってそういうところ冒険出来ないんだよなぁ。ついいつも通りの王道を選んじゃう」
「いえ、あの、私にとってピスタチオって王道なんです! ジェラートといえばこればっかり食べちゃう」
「へぇ、ピスタチオが王道ってすごいね。さすが一花ちゃん」

 褒められているのか分からないが、ジェラートは美味しかったのでつい笑顔になってしまう。

「そんなに美味しいの? 一口食べたいな」
「いいですよ、どうぞ」

 一花がジェラートを差し出したので、尚政はスプーンで一口分を掬って口に入れた。

「わっ、意外と美味しい! なんか香ばしいし、この色からは想像出来ない味だった。やっぱり冒険って必要なのかもねぇ」

 尚政は満足そうに目を閉じる。一花は自分の好きなものを尚政と共有出来たことに喜びを感じていた。

「でも私は食べたいものを食べるのが一番だと思いますよ。やっぱりあれにしておけば良かった〜とか思いたくないし」
「あはは、それも一理ある。じゃあダブルにすればいいんだ! 一つは王道、一つは冒険?」
「うん、賛成」

 二人はジェラートを食べ終えると、一花が行きたいと言った本屋に入る。一花が英単語を覚えるための参考書が欲しいと言ったので、尚政がオススメのものを教えたりした。

「さすが先輩」
「まぁ一花ちゃんより四年も早く生まれてるからね」

 そんな会話をしながら笑い合っていた時だった。

「あれっ、千葉じゃね?」

 誰かが尚政に話しかけてきた。振り返ると、尚政と同じ制服を着た男女五人組が立っていた。途端、尚政の表情が暗くなる。

「お前、妹なんかいたっけ?」

 一人の男子が近寄ってくる。一花は不安になって尚政の影に隠れた。なんとなく雰囲気が怖かった。

「あぁ、お前か。何か用? 今デート中だから邪魔しないで欲しいんだけど」

 尚政は一花の肩を優しく叩く。それだけで一花は少し安心出来た。
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