背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
全員いなくなったのを確認し、一花を解放した。
尚政の笑顔が曇っていることに気付き、一花は心配になった。
「はぁ……なんか急にごめんね。大丈夫だった?」
「私は大丈夫です……先輩は平気?」
「う〜ん……まぁ大丈夫かな。せっかくの一花ちゃんの誕生日なのに、変な空気にしちゃってごめんね」
一花は首を横に振る。
「……誕生日ついでに、先輩のことを知りたいって言ったらダメですか?」
尚政が困ったような顔をする。
「あまり人に話したくないんだよね……話してどうなるんだっていうのも本音」
「……そ、そうですよね。でしゃばっちゃってすみません」
せっかくの楽しかった時間がこれで終わってしまうのは嫌だった。一花は話題を変えようとして、尚政に背を向ける。
「とりあえず今のことは忘れて、あっちのお店に付き合ってもらえませんか?」
正面の輸入雑貨のお店を指差した。実を言えば、不安で泣きそうになる顔を隠したかったのだ。
すると尚政の手が一花の腕を掴む。
「巻き込んだのは俺なのにごめんね。一花ちゃんは心配してくれたのに……」
「いえいえ! 誰だって言いたくないことがあるはずなのに聞こうとした私がいけないんです……すみません」
尚政は申し訳なさでいっぱいになった。一花ちゃんをこんな気分にさせるなんて、俺は何をやってんだろう……。
一花の腕を掴んでいた手を離し、改めて手を握り直す。
「先輩?」
「やっぱり一花ちゃんに聞いてもらおうかなぁ。なんか一花ちゃんなら話してもいいかもって思ってるんだ。どうかな……聞いてくれる?」
「わ、私で良ければ!」
いつもの俺なら絶対にこんなこと言わないのにな。でも一花ちゃんを前にすると、話すべき理由も話さない理由も見当たらない。それなら話してもいい気がした。
真っ直ぐ俺を見て、心配してくれるこの子の目に嘘は見当たらなかったから。