背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜

「付き合ってから一カ月くらいだったかな。放課後に忘れ物を取りに教室に行ったらさ、中に彼女と男女が何人かいて、なんか楽しそうに話してたんだ。なんだろうって聞き耳たてたら、なんと俺の陰口」

 一花は驚いて、目を見開く。

「男は俺の態度がイラつくとか話してて、彼女は頑張り過ぎてちょっとキモい、思ったより面白くないとか。一緒にいる時はニコニコしてるから、そんなふうに思ってたってことにすごくへこんだ。でもさ、やっぱり陰でそういう言葉を言われてると思うと、周りを信じられなくなるんだよね。今は笑ってるけど、裏では何言ってるかわからないって」

 その言葉を聞いて、一花自身も不安に襲われる。私もそう思われてたらどうしよう……。

 それを察知したのか、尚政は一花に笑顔を向ける。

「一花ちゃんはさ、最初からなんか違ったんだよなぁ。あの捻くれ者の柴田がいい子っていうくらいだし、体育祭でも転んだだけなのに、この世の終わりくらい落ち込んでたし。何にでも一生懸命だし、発想が変だし……一花ちゃんからは嫌な感じがしないんだ」
「……それは私がまだ中坊だからですか?」
「その中坊に陰口言われてたんだけど。そうじゃなくて人間性じゃない? 一花ちゃんみたいなタイプは今まで周りにいなかったなぁって思って」

 あの時一花ちゃんみたいな友達がいたら、俺もこんなに引きずったりしなかったんじゃないかな。辛いけど、前に進もうって言ってくれた気がするんだ。

「先輩が彼女を作らないのは、その時のことがあるからですか?」
「……俺そんなこと言った?」
「あっ……部長がそんなようなことを前にいっていて……。でもデリケートな問題だからって、何も話してはくれませんでしたが」
「そっか……まぁあれがトラウマになってることは確かだね。でもそれだけじゃないんだよ。人を信用出来なくなったっていう根本的な問題。大好きだったバスケ部を辞めたのもそれが原因だし」

 一花は複雑な気持ちになる。それって、私が告白しても絶対に無理ってことじゃない? それならどうして待つなんて言ったんだろう。

 そこで一花ははっとする。もしかしてその時に私との関係を終了するつもり? 私も告白を引き伸ばしているけど、それに気付いてしまったら告白なんて出来ない。

「一人で過ごすとさ、すごく楽なんだ。ただね、一人は楽なんだけど、一花ちゃんといるのも楽なんだ。こう言ったら怒られそうだけど、俺のテリトリーには一花ちゃんがいればそれでいいや」
「……私はそばにいてもいいってことですか?」
「俺ってずるいよねぇ。彼女はいらないって言ったのに、一花ちゃんはそばに置きたいって。だからさ、いつでも愛想つかしていいからね。かっこいい彼氏作ってさ、いつか紹介してよ」

 この人はなんてことを言うんだろう……私が先輩を好きって知ってるくせに、なんで私を突き放すんだろう。

 溢れる涙を堪えられず、一花は声を上げて泣き始めた。

「一花ちゃん⁈ あれっ⁈ ご、ごめんね!」

 絶対に告白なんかするもんか。どうせ彼女を作らないのなら、私は先輩のそばにいるんだ。一花はそう心に決めた。
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