背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
 尚政の胸で泣き続けた一花は、ようやくスッキリしたように顔を上げる。

「誕生日なのに……」
「ご、ごめんね」

 一花は珍しく怒っていた。だからこそ尚政も自分がとんでもないことをしでかしてしまったと気が付いたのだ。

 まだ中学生なのに、あんな言葉を使ってしまった。きっと一花ちゃんの心を傷つけた……。

「俺はどうしたらいいかな?」

 尚政は困ったように一花に尋ねた。

「……最後までちゃんとデートしてください。楽しい気持ちで帰りたいから」
「うん……そうだね。じゃあさっき行きそびれた雑貨屋さんにいく?」
「行きたいです」

 歩き始めると、一花は尚政のブレザーの裾を掴んだ。そのことに気付き、尚政は彼女の手を引くとそっと握る。

「これからは裾じゃなくて、こうしようか?」

 初めは驚いたものの、嬉しそうに手を握り返してくる。

「私が先輩のトラウマをどうにかしてあげられたらいいのにな……」

 一花がボソッと呟く言葉が聞こえた。尚政は何かを言いかけて口を閉ざす。今は何を言っても一花を傷つけてしまいそうで怖かった。
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