背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
* * * *
尚政は従兄弟の尋人の部屋にいた。床に座ったままスマホの画面を眺めている。
「そんなしんみりした顔してどうしたんだ?」
アイスコーヒーのグラスを二つ持って部屋に戻ってきた尋人が、尚政の前のテーブルにグラスを置く。
「んー……なんでもない」
「じゃあそんな顔すんなよ」
尋人は尚政の正面に座ると、経済学の本を開く。
「ねぇ、俺ってどんな顔してんの?」
「寂しくて死にそう。一花ちゃん不足で欲求不満だよ〜って感じ?」
「マジ? 最悪じゃん。ってか中学生相手に欲求不満なんて言葉を使わないでよ」
スマホの画面には、一年前の制服デートの時に撮った二人の写真が映し出されている。
「何をそんなに意地を張るのか分からないな。会いたいなら会いに行けばいいのに」
「会う理由がない」
「なんでも作れるだろ? お菓子が食べたいから作って〜とかさ」
そう、わかってるんだ。理由なんかいくらでも作れる。会いたいなら会えばいい。でも会うのを避けている自分がいる。
どうして? 俺にだってわからないんだよ。今一花に会うと、きっと俺自身が変わってしまう気がするんだ。一生懸命一人で生きていける自分を作り上げてきたのに、それを崩されそうな感覚に陥る。この気持ちがなんなのか、分かりかけては壁の外に追い出す。だめだ、自覚してはいけない。
会わなければ、気持ちは少しずつ冷めて消えていくはず。そう思っていたのに、一花からの三日おきのメールは途絶えないし、メールが来るたびに安心する俺もいた。
「もうすぐ二月か。一年経つのも早いなぁ」
そこではっとする。一花の誕生日を忘れていた。昨年は完璧とは言い難い誕生日にさせてしまった。
誕生日くらいなら……。揺らぐ気持ちの中、尚政はスマホを握りしめた。