背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
 冬の動物園の中は、それほど混雑はしていなかった。入口で地図を手に取ると、尚政は先ほど一花が言っていた大きい動物の場所を探す。

「やっぱり大きい動物優先で見ていく?」

 尚政の問いかけに、一花は首を横に振る。

「時間はたくさんあるし、ゆっくり順路通りに行きましょう」

 やっと二人で会うことが叶ったのに、焦りたくなかった。いろいろな話をして、出来ることなら次に会う約束も繋げたい。

 先輩はすぐに俺《《なんか》》って言うの。そうなるとどんどんマイナスな会話になっちゃうから、それだけは回避しないと。去年の二の舞は嫌だもの。

 二人は順路に沿って歩き始める。

「先輩、大学は楽しい?」
「うん、まぁまぁ。柴田に今日一花に会うって言ったら、すごい剣幕で怒ってた。一花って本当に柴田のお気に入りだよねぇ」
「本当? 嬉しいなぁ。部長ともまだ仲良しなんですね」
「同じ学部だから、嫌でも会うんだよ」

 一花は少し寂しそうに笑った。

「羨ましいな……。今だって学校に先輩がいなくて寂しいのに、私と先輩は四学年違うから、一緒に大学に通うことはできないし……」
「……一花ってそんな先のことまで考えてるの? ちょっとびっくり」
「……先輩なんか留年しちゃえばいいのに」
「ボソッと言ったつもりだろうけど、しっかり聞こえてるからね」

 くだらないことで笑い合う。一花はそれが嬉しかった。やっぱり先輩と一緒にいると楽しいの。たぶん今日もまた先輩は私を突き放そうとするはず。でも離れてなんかあげないんだから。
< 46 / 136 >

この作品をシェア

pagetop