背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜

* * * *

 休憩も兼ねてレストランで昼食をとり、二人は一息ついていた。尚政はコーヒーを飲みながら、入念に地図を見ている。

「もうすぐキリンがいるみたい」
「本当? 楽しみだなぁ。先輩は見たい動物っている?」
「ライオンとトラ。さっき見たからもう満足」
「ふーん……」

 目が合えば緊張するけど、合わなさすぎるとこっちを見て欲しくなる。この矛盾ってなんでかな……。

 すると尚政が顔を上げて、一花の手を指差す。

「さっきから気になってだんだけど、それって去年買った指輪?」
「あぁ、そうです。先輩とのデートだしつけてきちゃった」
「……まだ入るんだ?」
「そんな簡単にサイズアウトしませんよ……」

 その流れで一花はカバンの中からラッピングをした四角い箱を取り出すと、尚政の前にそっと置く。それに気付き、尚政の表情が綻ぶ。

「もしかしてお菓子⁈」
「あの……ちょっと早いけどバレンタインチョコレート。先輩忙しくてなかなか会えないし、今日はちょうどいいかなって思って……」

 尚政がラッピングを解いて中を開けると、生チョコが入っていた。

「先輩、生チョコ好きだったなって思って」
「……なんか懐かしいね」

 尚政は一粒つまむと、口に入れた。

「うん、美味しい。一花の生チョコ、好きだなぁ……。でも今日って一花の誕生日で来てるのに、俺がもらっていいの?」
「いいの。やっと先輩に食べてもらえて、私も大満足ですから」

 尚政はもう一粒口に入れると下を向く。

「……一花はさ、どうしてそんなに俺に構うの?」

 下を向いているから表情は見えないが、どことなく重たい空気を感じとる。

「……どうしてって、先輩といると楽しいからそばにいたいって思ったらおかしい?」
「……」
「私のことはそばに置いてもいいって言ってくれたの、覚えてる? 私が愛想つかさなければそばにいられるって思ってたのに、一年間会ってもくれなかったよね」
「……それは……」

 尚政は言いかけて黙る。言いたいことがあるなら、言ってくれて構わないのに……。きっと私を傷つけるとでも思ってるんじゃないかしら。
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