背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜

 一花は会話も料理も上手く、後輩の面倒もよく見てくれる柴田を尊敬していた。

「部長、私がっつりケーキが食べたい。結婚式に出てくるくらい大きいやつ!」
「みんなで作るんだから無理だろ。それぞれ作って合体してもいいけど、だったら普通にケーキでいいんじゃないか?」
「了解で〜す」
「新入部員もいるし、とりあえずマフィンにしようか」
「賛成〜!」
「なんだかんだ言って、部員ってば彼氏持ちに優しいんだから〜!」
「そのかわり、ちゃんと作らないと彼氏の反応までは責任もたないからな」
「はーい!」

 マフィンは最近あまり作っていなかったので、一花は久しぶりにワクワクしていた。

「じゃあ今日はこれで終了。解散」

 柴田の言葉とともに、部員たちは調理室から出て行くが、一花は逆にみんながいなくなるのを待っていた。

 そんな一花の姿に気がついたのは副部長の園部美織(そのべみおり)だった。

「一花ちゃん、どうしたの? 何か質問でもあった?」
「い、いえ、違うんです! あの……先輩たちに聞きたいことがあって……。すごく個人的なことで申し訳ないんですが……」

 一花が申し訳なさそうに言うと、個人的なことという部分に反応した柴田が興味深そうに振り返る。

「いいね、個人的なこと。なんだい?」
「あの……高等部三年の千葉尚政さんってご存知ですか……?」
「千葉くん? 知ってるも何も、同じクラスだよ。しかもたっちゃんは中等部からずっと同じクラスだよねぇ」
「まぁ腐れ縁ってやつだなぁ。千葉がどうかしたのか?」
「そ、そうなんですか⁈ じゃあもしかしていろいろご存知だったりしますか⁈」
「それなりにご存知だな」
「そうね」

 一花は二人が座っているテーブルの正面の椅子に座る。

 急に恥ずかしくなり、顔を隠すように下を向いた。
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