背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
* * * *
先輩からの返事はあっさりとしたものだった。
『入学おめでとう。制服、すごく似合ってるね。実りある三年になるよう祈ってるよ』
先輩好みになるよう髪を下ろしたのに、その辺りはスルーされてる。かわいいとか一言言ってくれるだけで嬉しいのになぁ……。
「先輩、なんか言ってた?」
「制服似合ってるって」
「……それだけ?」
「実りある三年になるように祈ってくれてるらしいよ」
「……先輩って、本当に女心がわかってないよねぇ。誰のためにイメチェンしたと思ってるんだろ?」
調理部と吹奏楽部の活動のない水曜日の放課後、一花は芽美と智絵里と一緒に多目的ホールでおしゃべりに花を咲かせていた。
高等部に上がり三人はクラスが離れてしまった。同じクラスの友だちとはまだそこまで打ち解けていなかったため、一花はこうした時間に尚政のことを話したりしていた。
「まぁ仕方ないよ。彼女はいらないって言う先輩につきまとってるのは私だし」
「……なんか一花を見てると、恋愛って楽しいだけじゃないんだなぁって、ちょっと身構えてしまうわ」
「えっ、とうとう智絵里にも恋の予感⁈」
珍しく元気のない智絵里が呟くと、芽美が食いついた。
「いやいや、一般論として。片想いが楽しいって人もいるけど、一花は楽しそうに見えないんだもん。むしろ苦しそうだよねぇ」
「それはたぶん未来が想像出来ないからかも。だって彼女はいらないって言われてるんだよ? それって告白したら振られることが前提なわけだし」
「……じゃあ一花は何のために先輩に恋してるの? 辛いなら、もっと未来の見える人と恋愛した方がいいって思わない?」
「そう思ったこともあるよ。でもね、そうすると恋愛したくなくなっちゃうの」
「……どういう意味?」
「先輩だから好きで、先輩だから一緒にいたいって思うの。それ以外の人なら、なんか今はいいかなぁって思っちゃう」
「……大変。この子ってば相当重症だわ」
自分でもそれはわかってる。でも先輩以外の人にときめいたことがないんだもの。
会えばドキドキするし、一緒にいるだけで嬉しくなる。こんな気持ち、先輩にしか抱いたことはない。
「まぁ一花の性格はわかってるし、私たちは見守るだけだからさ。困ったことがあったら言ってね」
「ちなみに次のデートは決まってるの?」
「うん。先輩の誕生日に水族館に行く予定」
「そっか。何か進展があるといいね」
芽美の言葉に一花は笑って頷いた。
一花にこういう顔をさせられるのは先輩だけだということを、二人はずっと前から気付いていた。だからこそ、一花の恋を応援したいと思うのだった。
「ねぇねぇ、どうせ友達以上になれないなら、もっと積極的になってみたら? 先輩をドキドキムラムラさせて、付き合ってくれー!って逆に先輩に言わせるのよ!」
「……例えば?」
「そうだなぁ……。セクシーな服を着てみるとか、唇をキラキラさせちゃうとか」
「えっ……引かれたりしないかな」
「さりげなくアピールすれば、ちょっとイメチェンしたのかなぁくらいにしか思わないよ」
「そうかなぁ……」
芽美の意見は一理あるかもしれない。気持ちはバレてるわけだし、それくらいしても先輩はきっと何も思わないだろうな。だったら少し背伸びしてみてもいいかもしれない。