背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
 一花との待ち合わせはこれで何回目だろう。会うたびに一花の新しい魅力に気付くんだ。

 水族館を選んだのは、前回が動物園だったからという単純な理由だった。しかし以前一花に行きたい場所を聞いた時のリストに入っていたこともあり、はずれではないと思った。

 駅で一花の姿を探すと、前回と同じ柱の前に立っている。白のオフショルダーのブラウスにデニムスカート、スニーカーを合わせていた。

 今日の尚政がTシャツにデニムを履いていたため、どこかペアコーデのようになっている。

 尚政は一花に近づこうとして、ふと足を止める。今日は一花を驚かせてみようかな。そんな考えが頭をよぎり、尚政はゆっくりと一花の背後に回った。

 そして両肩を叩きながら、
「お待たせ!」
と言うと、一花はびっくりしたように体を大きく震わせる。

「せ、先輩⁈」

 少し怒ったように振り返る一花を見て、尚政は妙な感覚を覚える。振り返りざまの表情や、揺れる髪にドキッとする。

 おかしいな、いつもだったら一花の反応が面白くて笑ってたのに……。

「もうっ、びっくりさせないでくださいよ! 心臓が飛び出るかと思った」
「ご、ごめんごめん。たまには違う登場の仕方でもしてみようかと思って」
「またそうやってまたからかうんだから……まぁいいけどね、それが先輩だし」

 怒っていたかと思うと、一花は一転笑顔になる。それを見て尚政はホッとする。あぁ、良かった。大丈夫だ。いつも通りの一花じゃないか。

「さっ、行こう?」

 自然と手を繋ぎ、二人して改札を抜けて行く。エスカレーターに乗り、ホームへと向かう間も、一花は楽しそうに話していた。

「水族館って宇野島水族館でいいんだよね?」
「うん。今から行けば一回目のイルカショーにも間に合いそうだし」
「本当? 楽しみだなぁ」
「俺も久しぶりだから楽しみだよ。最近は一花のおかげでいろんな場所に行けるなぁって思ってた」

 すると一花は嬉しそうに笑う。

「なんてったって現役のJKですからね! 一花をそばに置いておいて良かった〜って思わせるんだから」
「それは頼もしい」

 なんてね。そんなこと、とっくに思ってる。
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