背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
* * * *
水族館に着くと、二人はイルカショーへ急いだ。案の定端の席しか残っていなかったが、二人は並んで座れる場所を選ぶ。
「先輩、イルカ好きなの?」
「そうだなぁ……イルカだけじゃなくて、海の生き物は結構好きかも。なんかあの力強く泳ぐ感じがいいなぁって思うんだよね」
尚政の笑顔を見て、一花はそれだけで満足する。先輩が水族館好きだなんて、新しい発見しちゃったな……。
「そういえば、この間一花が送ってくれた写真を柴田に見せたら驚いてたよ。すごく大人っぽくなったって」
「本当? 嬉しいなぁ。もう高校生だしね、やっぱり少しは大人にならないと」
一花の笑顔は変わらず尚政を安心させるのに、どうしてか心が乱される。
出会った頃の一花のままでいて欲しいと思うのに、彼女の変化を止めることは出来ない。それに見た目が大人っぽくなっただけで、別に一花が変わったわけじゃないんだ。見た目と中身のギャップに俺がついていけてないだけ。
一花はそんな尚政の想いに気付かず、彼の顔を覗き込む。
「ねぇ、先輩。今日の私、結構色っぽい服装をしてると思うんだけど、なんとも思わない?」
「おぉ、JKの肩が出てる」
その言葉を聞いて、一花は少し不満そうな顔をする。
「まだ色気が足りないのね……」
「でもそんな風に肩を出しちゃうなんて、一花も相当自信をつけたのかな?」
今度は逆に尚政が一花の顔を覗き込む。その途端、一花の表情が曇った。そのことに気付いたが、尚政は続ける。
「自信つけた一花なら、すぐにでも彼氏が出来ると思うんだけどなぁ」
「……そういういじわるは良くないと思う。それに私はまだ自信なんかつけてないもの……」
「そうなの?」
「そうなの」
「いつになったら自信つくのかなぁ」
「もしかしたら一生つかないかもしれないよ」
一花が言うと、尚政は困ったように笑う。
三歩進めば二歩下がる。先輩との関係は前進しない。でも告白したら振られるのはわかってるから、絶対にしない。
その時、イルカショーの始まりを知らせる音楽が鳴り響き、二人は口を閉ざした。