背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
* * * *

 レストランで食事を済ませた後、先ほどの真珠を取りに行こうとした時だった。

「あれっ、雲井さん?」

 急に声をかけられ、一花は振り返った。するとそこには一花のクラスメイトの篠田が立っていた。その奥の方で篠田を呼ぶ男女五人ほどの姿が見える。

 一花は突然のことに驚き、尚政の腕を強く握る。

「偶然だね〜。まさかこんなところで会うなんて」
「そ、そうだね!」

 一花が緊張しているのが伝わってきたので、尚政はそっと一花の頭を撫でる。一花ははっとして尚政の顔を見ると、安心したように手の力を緩めた。

「学校の子?」

 尚政が聞くと、一花は頷く。

「クラスメイトなの」

 篠田も尚政の存在に気付き、お辞儀をする。

「ってことは、俺の後輩ってことね」
「えっ、先輩なんですか⁈」
「もう卒業してるけどね」

 一花がその場を早く離れたそうにしていたので、尚政は篠田に笑顔を向ける。

「じゃあ俺たちは失礼するね」

 二人がその場を離れようとすると、篠田は尚政に話しかける。

「へぇ……卒業してからも会うなんて、相当仲が良かったんですねぇ」

 やはり一花の変化は、少なからず周りに影響を与えているようだ。

 その時に篠田の気持ちに気付き、尚政は何故かモヤっとする。探りを入れているんだろうが、遠回しな言い方にイラッとした。

「そうだねぇ。仲良くしてるよ」

 そして尚政は一花の手をわざと指輪が見えるようにとると、そっと口付ける。それを見た篠田は、表情をこわばらせて去っていった。

 年上に喧嘩売るんじゃない、まったく。

「じゃあ一花、行こうか……って、どうした⁈」

 一花は真っ赤な顔で呆然としている。

「せ、せ、先輩が急にあんなことするから!」

 尚政自身も、相手を牽制するためとはいえ、あんなことを普通にやってしまったことに恥ずかしさを覚える。

「ごめんごめん! と、とりあえずネックレス取りに行こう!」

 慌てて話題を変えたが、繋いだ一花の手はいつまで経っても熱いままだった。
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