背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
一花は唇をキュッと結び、尚政の髪に指を滑り込ませる。
「……ねぇ先輩、普通の友達ってキスはしないよね……?」
「まぁ普通はしないんじゃない? でも一花はしないと変態になっちゃいそうだしねぇ……」
一花は尚政の返事を待ちながら、不安そうな表情を浮かべる。
どうしたものかな……尚政も悩む。先にしたのは俺だし、こう言ったら都合が良いかもしれないけど、一花ならって思う自分がいる。
「俺たちって微妙な関係だよね。友達以上恋人未満ってやつ? だから……例えば別れ際に挨拶としてするのはどうかな?」
「うん……それでいい。先輩に近付けるならそれでいいの」
一花の真剣な顔を見て、尚政は自分の変化に気付いていく。一花との間にかかる橋は壊れることなく、彼女は少しずつ歩みを進めてくる。
それと同時に複雑な気持ちになった。一花に彼氏を作れと突き放したり、キスを許したり、はっきりしない自分が嫌になる。
一花のことは好きだ。きっと今周りにいる誰よりも……。でもまたいつか裏切られるんじゃないかと思うと、怖くて認められないんだ。
「そういえば、さっき話しかけてきた子とは仲良いの?」
「篠田くん? いや、全然。私ってかなりの人見知りだし、男の子と話すのは特に苦手で……」
「ふーん……」
「そう考えると、ちゃんと話せる男の人って先輩と部長だけかも」
一花は嬉しそうに尚政の頭を撫でる。照れたように顔を背けた尚政の姿にキュンとした。
一歩進んだけど、先輩のことだからいつまた後退するかわからない。もっと私の存在を大きくする方法はないのかな……。
「あっ、そうだ!」
一花はカバンの中から袋を取り出すと、尚政に差し出す。尚政は起き上がり、それを受け取った。
「誕生日プレゼント。中学の時はお菓子だったし、去年はあげられなかったから」
箱を開けるとブルーのネクタイが入っていた。
「来年からは就活とか始まるんでしょ? その時に使えるかなぁと思って」
「……一花さ、ネクタイをプレゼントする意味って知ってる?」
首を傾げた一花の耳元で尚政はそっと囁く。
「あなたにくびったけって意味なんだって。まぁある意味当たってるね」
「……知らなかった」
「一花の気持ちはしっかりいただくよ。ありがとう」
返事がもらえないのはわかってる。それでも私の気持ちが伝わって、友達として応えてくれることが今は嬉しかった。
* * * *
帰りはいつもの場所まで手を繋いで歩く。二人が別れる角まではあと少し。
一花は緊張していた。勢いとはいえ、今日は二回もキスをしてしまった。だとしたら、さすがに別れ際のキスはしてもらえないだろうか。
到着した時、尚政はガチガチに固まっている一花を見て笑い出す。
「なんて顔してんの?」
そしてすぐに唇を塞がれる。一花は息が出来なかった。
「今日はありがとう。じゃあまたね」
「あっ、こっ、こちらこそありがとうございました!」
尚政の背中を見送りながら、一花はその場に座り込んでしまう。
どうしよう……先輩のことが好きで好きでしかたがない……。