背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
「あの……私、体育祭の時に転んじゃって……医務室にいた千葉先輩に助けてもらったんです……」
「あぁ、そういえばそんなこと言ってたな。たまたま図書館にいたら、医務室の留守番を押し付けられたって」
「それで……その……もし良かったら、あの、千葉先輩のことを教えていただけないかと思いまして……」
一花の様子を見て、二人はピンとくる。
「もしかして一花ちゃん、千葉くんが気になっちゃってるんだ?」
園部の言葉に一花は顔を真っ赤にして頷いた。
「あの時初めて会ったのに、あれからずっと先輩のことが頭からなかなか消えてなくて……」
「そっか……教えてあげるのはいいんだけど……ねぇ?」
園部はたった一言だけ問いかける。それに対して柴田も頷いた。
「あいつはすごくいい奴なんだけど、ちょっと天邪鬼なところがあるんだよなぁ。かなり手強いと思うよ」
「あ、あのっ……私はまだ中学生だし、先輩の彼女になりたいとかではないんです! 先輩のことを知りたいなって思っただけで……」
二人は一花に微笑む。
「じゃあなんの情報からがいいかな」
「出来たら基本情報からお願いします」
一花の一生懸命な姿がかわいくて笑ってしまう。
「そうだな。誕生日は五月二十五日……忘れてた、来週だった。血液型はA型。今は帰宅部だけど、昔はバスケ部に入ってたよ。好きな食べ物はチョコレート。彼女は中二以来いたことないから安心していいよ。まぁそこに関して言うと、今後もできる可能性は低いと思うけどね……」
「どういうことですか……?」
「ちょっとデリケートな問題なんだ。こればかりは本人の同意なしに話せないんだよなぁ」
一花が落ち込むと、園部が話題を変えるように話を続ける。
「あとはお笑い好きってこととか?」
「音楽も好きだよな。ほらあのバンド」
「あぁ、確かに」
一花は二人の言葉を熱心にメモしていく。気になることはあったが、一行一行、先輩の情報で埋まっていくことが嬉しかった。
「大学もこのまま上に上がる予定みたいだし、会おうと思えば会えると思うけど」
柴田の言葉に、一花は寂しそうに笑う。
「……でも中等部と高等部でもこんなに会えないじゃないですか。卒業するまでにきっと話すこともないだろうなと思って……」
「でも知りたいんでしょ? それって知り合いたいってことじゃないの?」
二人の言う通り、本当はもう一度話して、知り合いたいと思っていた。
「……私はまだ子どもだから、先輩も迷惑かなって……」
「まぁ告白されたら困るな」
「たっちゃん!」
「でも悪い気はしないと思うよ。かわいい後輩とか、友達なら近くにいたっておかしくないだろ?」
柴田の言葉に一花は元気をもらえた気がした。そばにいられるのは、彼女だけじゃないんだ。それくらいなら願ってもいいのかな……。