背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
会いたい、会えない
尚政が従兄弟との時間を大事にしていることはわかっていた。だから今年の夏休みに二人で自転車で日本縦断すると言われた時も、一花はただ納得してしまった。
友達以上恋人未満。彼女でもないのに会いたいなんて言えない。ただ尚政の気持ちが後退しないように、一花が一日一枚でいいから写真を送って欲しいと言うと、それは快諾してくれた。
夜になると送られてくる写真を楽しみに、会いたい気持ちをグッと抑えて一花は毎日を過ごしていた。
* * * *
尚政は休憩のために立ち寄った道の駅で、食料の買い出しと共に、お土産売り場にも立ち寄る。
「すごい……またあった……」
ご当地グッズのコーナーで、後向前太郎のキーホルダーを見つけて手に取る。こんなにグッズ展開してるなんて、俺の想像以上の人気者なんだな。
夏休みに入ってから、従兄弟の尋人と二人で自転車で日本縦断を始めて一カ月が経とうとしていた。最初に計画を聞いた時は不安ばかりだったが、尋人と一緒にいると不思議とやる気が湧き上がるのだった。
「また後向前太郎グッズを買うのか? 何個目だよ」
尋人は呆れたように言ったが、尚政は気にせずレジへ持っていく。
もちろん一花へのお土産だったが、後向前太郎を見ていると一花を思い出し、彼女がそばにいるような気持ちになった。
日射しを避けるように木陰に止めた自転車のそばでパンを頬張りながら、尋人は尚政の方を見た。
「一花ちゃんとはどうなってんの? それだけキーホルダーを買いまくってるし、まぁ悪い方向には行ってないと思うけどさ」
「……なんか不思議な関係を続けてるよ。友達以上恋人未満ってやつ」
そこで尋人が怪訝そうな顔になる。
「お前まさか女子高生に手を出したりしてないよな……」
「……手は出してない」
「おいおい、ちょっと待てよ。なんか今の言葉って含みがあったぞ。どういうことだ?」
尚政は困ったように頭を掻きながら、パンを口元から離した。
「キスはした」
「……手を出してるじゃん」
「いやいや、キスだけ。体の関係はないよ……」
どこか寂しげな様子に、尋人は尚政の心の内を察する。
「まだあのことを引きずってるのか?」
「まぁ……臆病になってるのは確かだね。バイト先の人がみんな良くしてくれるから、仕事での人との距離の取り方はわかるようになってきたかな。ただ……」
「恋愛はそうもいかないと? でもさ、初めて付き合った人と添い遂げるなんて稀な話じゃないか? みんなそれなりに出会いと別れを経験してると思うけどな」
「ただの出会いと別れならいいんだけど、なんていうか、また裏切られたらと思うと怖いんだよ。もう生きていけないかもしれない」
「ふーん……じゃあ聞くけど、一花ちゃんは裏切るようなタイプの子なのか?」
尋人の質問に、尚政はしばらく沈黙する。
「……そんなタイプじゃないから、裏切られたらと思うと前に進めない……」
「でもキスしてんじゃん。一歩進んだな」
「それは……」
「まぁあとはお前の心次第だな。一花ちゃんになら人生預けられるって思えるようになった時、まだ一花ちゃんがそばにいてくれるかはわからないけど」
「そんなことはわかってるよ……」
「あっ、くれぐれもセフレとかにはするんじゃないぞ」
「そっちはもっとよくわかってる……」
人の気持ちなんて、いつどう変わるかわからない。一花だっていつまで俺を好きでいてくれるかなんて予測出来ない。
『ほらまた後向きに考えてる』
尚政ははっとした。一花の声が聞こえた気がしたのだ。
「ははっ、また石橋を叩いちゃったよ……」
この考え方から脱却するにはまだまだ時間がかかりそうだ。その間に一花が離れてしまっても、それは仕方のないこと。でももし一花が見捨てないでいてくれたら?
尚政は空を仰ぐ。その時は……。
友達以上恋人未満。彼女でもないのに会いたいなんて言えない。ただ尚政の気持ちが後退しないように、一花が一日一枚でいいから写真を送って欲しいと言うと、それは快諾してくれた。
夜になると送られてくる写真を楽しみに、会いたい気持ちをグッと抑えて一花は毎日を過ごしていた。
* * * *
尚政は休憩のために立ち寄った道の駅で、食料の買い出しと共に、お土産売り場にも立ち寄る。
「すごい……またあった……」
ご当地グッズのコーナーで、後向前太郎のキーホルダーを見つけて手に取る。こんなにグッズ展開してるなんて、俺の想像以上の人気者なんだな。
夏休みに入ってから、従兄弟の尋人と二人で自転車で日本縦断を始めて一カ月が経とうとしていた。最初に計画を聞いた時は不安ばかりだったが、尋人と一緒にいると不思議とやる気が湧き上がるのだった。
「また後向前太郎グッズを買うのか? 何個目だよ」
尋人は呆れたように言ったが、尚政は気にせずレジへ持っていく。
もちろん一花へのお土産だったが、後向前太郎を見ていると一花を思い出し、彼女がそばにいるような気持ちになった。
日射しを避けるように木陰に止めた自転車のそばでパンを頬張りながら、尋人は尚政の方を見た。
「一花ちゃんとはどうなってんの? それだけキーホルダーを買いまくってるし、まぁ悪い方向には行ってないと思うけどさ」
「……なんか不思議な関係を続けてるよ。友達以上恋人未満ってやつ」
そこで尋人が怪訝そうな顔になる。
「お前まさか女子高生に手を出したりしてないよな……」
「……手は出してない」
「おいおい、ちょっと待てよ。なんか今の言葉って含みがあったぞ。どういうことだ?」
尚政は困ったように頭を掻きながら、パンを口元から離した。
「キスはした」
「……手を出してるじゃん」
「いやいや、キスだけ。体の関係はないよ……」
どこか寂しげな様子に、尋人は尚政の心の内を察する。
「まだあのことを引きずってるのか?」
「まぁ……臆病になってるのは確かだね。バイト先の人がみんな良くしてくれるから、仕事での人との距離の取り方はわかるようになってきたかな。ただ……」
「恋愛はそうもいかないと? でもさ、初めて付き合った人と添い遂げるなんて稀な話じゃないか? みんなそれなりに出会いと別れを経験してると思うけどな」
「ただの出会いと別れならいいんだけど、なんていうか、また裏切られたらと思うと怖いんだよ。もう生きていけないかもしれない」
「ふーん……じゃあ聞くけど、一花ちゃんは裏切るようなタイプの子なのか?」
尋人の質問に、尚政はしばらく沈黙する。
「……そんなタイプじゃないから、裏切られたらと思うと前に進めない……」
「でもキスしてんじゃん。一歩進んだな」
「それは……」
「まぁあとはお前の心次第だな。一花ちゃんになら人生預けられるって思えるようになった時、まだ一花ちゃんがそばにいてくれるかはわからないけど」
「そんなことはわかってるよ……」
「あっ、くれぐれもセフレとかにはするんじゃないぞ」
「そっちはもっとよくわかってる……」
人の気持ちなんて、いつどう変わるかわからない。一花だっていつまで俺を好きでいてくれるかなんて予測出来ない。
『ほらまた後向きに考えてる』
尚政ははっとした。一花の声が聞こえた気がしたのだ。
「ははっ、また石橋を叩いちゃったよ……」
この考え方から脱却するにはまだまだ時間がかかりそうだ。その間に一花が離れてしまっても、それは仕方のないこと。でももし一花が見捨てないでいてくれたら?
尚政は空を仰ぐ。その時は……。