背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜

同じ目線で

 尚政が飲食店でアルバイトをしていたため、クリスマスや正月も時間が合わず、次の約束は一花の誕生日になった。

 それでも夏休みから毎日届くようになったメールのおかげで、一花は尚政をそばに感じることが出来た。

『今年は放課後でもいい?』

 学校とかバイトとか、忙しいのかな……。

『うん。大丈夫』

『じゃあ学校の駐輪場で待ち合わせね』

 尚政が大学に進学してからは、駐輪場に行くこと自体なくなっていた。彼と会っていたこの場所は特別だったが、尚政がいなければ行く必要がない。

 なんでここなのかな……駐輪場に到着した一花は辺りを見回すが、学生がちらほらいるだけで尚政の姿は見当たらなかった。

 二人でよく話した壁際には男子生徒が寄りかかっていた。そう思った時、一花は懐かしい感覚に陥る。

 ちょっと待って。あの姿ってもしかして……。

 一花は壁際の男子生徒の近くまで駆け寄り、恐る恐る顔を見る。すると尚政がいたずらっぽい笑顔を向けた。

「見つかっちゃった」
「せ、先輩⁈」

 一花がびっくりして大きな声をあげると、尚政は慌てて彼女の口を手で塞いだ。

「しーっ。バレたら恥ずかしいからさ」
「で、でもなんで?」
「ちょっとしたサプライズってやつ? 前に一花と約束したでしょ? 高校の制服を着て制服デートしようって。さすがに俺的に来年はキツイかなぁと思ってねぇ」
「……覚えてくれてたの?」

 久しぶりに尚政に会えたことはもちろん、淡い恋心を抱いたあの頃の尚政が目の前に現れ、一花の胸はドキドキが止まらなかった。

 呆然としている一花を見て、尚政は少し不安になる。

「あれっ、もしかして引いた⁈ じゃ、じゃあ制服脱いだ方がいいかな……? やっぱりやめれば良かった……。いや、悩んだんだよ、俺もさ……」

 すると一花は慌てて首を横に振る。

「ち、違うの! 嬉しかっただけだから……!」

 尚政は笑顔で一花の手を取ると、バス停まで歩き出す。まるで初めて制服デートをした時みたいな気持ちになる。

「どうしよう……。私、嬉しくて気持ちを抑えられないかもしれない……!」
「あはは! 何それ。俺、襲われちゃう感じ?」

 笑いながらバスに乗り込むと、二人席に並んで座る。一花は尚政から漂う匂いに気付いて吹き出した。

「先輩、クリーニングの匂いがする……」
「だよね。一応クローゼットの外には出してたんだけどなぁ。二年ぶりだし、なかなか匂いって消えないね」

 一花は尚政の肩にそっと寄りかかった。同じ制服を着て、(はた)から見れば、きっとどこにでもいるような高校生のカップル。おかしな目で見られることもないはず。
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