背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
 バスを降りると、店舗の立ち並ぶ通りに向かって歩き出す。一花は早速尚政の腕に自分の腕を絡めた。

「これからどうしようか? 映画とか考えてたんだけど」

 尚政の言葉に一花は首を横に振った。

「せっかく恋人ごっこの時間なのに、そんなもったいないことしたくない」
「……一花ってそんなに積極的だったっけ?」
「だって今日はごっこでも恋人だし、先輩としたいことがいっぱいあるの。だからちゃんと付き合ってね」
「一花の彼氏が大変なのか幸せなのか、見極めるチャンスってことだ」

 そう言われて一花はドキッとする。そっか……わがまま言うだけじゃダメなのね。ちゃんといい女にもならないと……とはいえ、やっぱり我慢はしたくない。先輩が私なしじゃいられないくらいにさせるにはどうしたらいいんだろう。

「……先輩、今日はいっぱいイチャイチャしますよ」

 前に部長に、先輩を変えられるのは私しかいないって言われた。そんなことは烏滸(おこ)がましいって今だって思う。それでも何もしないよりはいいのかもしれない。

 私が先輩を変えたい。私は先輩のことを裏切ったりしないって伝えたい。私にずっとそばにいて欲しいって思わせたい……。
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