背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜

* * * *

 尚政は想定外の方向に進んでいることに戸惑っていた。いつもと同じデートくらいだと思っていた。

 まさか恋人ごっことは……一花の考えは、いつも俺の斜め上を行く。

 一花だってもうすぐ高校二年生になるわけだし、そういう考えになったっておかしくない。まぁキスだってしてるわけだしね……。

 年上ぶりながらも、一花と一緒に中二の自分から少しずつ成長している気がしていた。でも最近はどうだろう。一花の成長に、俺はついていけているのだろうか。

 腕にしがみつく一花を振り払おうともせず、されるがままになっているのは、俺自身が一花の一番でありたいって思っているから。

 それにしても、一花にとってのイチャイチャってどの程度のことを指すんだろう。ちゃんと俺の理性で我慢できるくらいであることを祈ろう。

 まだまだ子どもと思っていた一花にこんな(よこしま)な気持ちを抱くことになるなんて……。

 尚政は腕に当たる一花の胸の感触については考えないようにする。

「そうだ先輩、新しく出来たパンケーキのお店があってね、ずっと行きたいなぁって思ってたの」
「いいね、パンケーキ。男だけじゃ入りにくいからねぇ」

 尚政の『男だけじゃ』という言葉を聞いて、彼の周りに女性がいないことを知り安心した。

 お店の前に行くと前に二組並んでおり、二人はその後ろに並んだ。尚政は店内を覗き込み、客が食べているパンケーキのボリュームに驚く。

「食べ切れるかなぁ」
「甘いのと食事系のパンケーキを頼んでシェアしましょう。そうしたらどちらも食べられるし、きっと胃ももたれなさそう」
「へぇ、一花でももたれるの?」
「甘いのは好きだけど、たくさんはねぇ……」

 そこに店員がメニューを持ってやってくる。一花はメニューを受け取ると中を開き、それを見ながら髪を耳にかける仕草をする。その瞬間、尚政はドキッとした。

 きっと無意識なんだよな……こういう仕草が嫌な男はいないはず。そう思うと少しモヤっとする。

「一花さ、学校はどう? 前より男子と話せるようになった?」
「ん? いや全然。話しかけられることは中学時代よりは増えたけど、あんまり会話にならないよね」

 やっぱり近付く男は多いんだ。そのことを知って、尚政はあまりいい気分はしなかった。一花の背後から手を伸ばしてメニューに手を添えると、彼女の肩に顎を乗せる。

「俺はキャラメルバナナが食べたい」
「わっ、意外。先輩のことだからイチゴ系かと思った」
「なんか、甘ったるいのが食べたい気分かも」
「……今が十分甘ったるい感じですけどね……。じゃあもう一つは生ハムサラダはどうかな?」
「うん、そうしよう」

 メニューを閉じると、行き場をなくした尚政の手を、一花は自分の腹部へと誘導する。

「実は先輩も恋人ごっこを楽しんでるでしょ? こういう風に甘えてくれる先輩も好きだけど」

 一花はニヤニヤしながら尚政に語りかけたが、当の本人は言葉を失った。

 俺が甘えてた? 無意識の行動だった。しかも一花、自然に俺のこと好きって言ってるし。それに気付いたのか、一花は頬を染めて笑顔になる。

「今日は恋人ごっこでしょ? 我慢しないで言っちゃうんだから」
「何を……?」
「うふふ。いろいろ」

 二人は店員に呼ばれて入店したが、尚政は高鳴る鼓動を止めることが出来なかった。
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