背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
* * * *
一花が美味しそうにパンケーキを頬張る様子を見て尚政は少し安心した。こういう時の表情は変わらない。
「先輩、ちゃんと食べてる?」
「大丈夫。食べてるよ」
尚政は答えたが、一花はキャラメルバナナのパンケーキを一口サイズに切ると、彼の口元へ運ぶ。
「はい、あーんして」
一花はニコニコしながら尚政の顔を見ていた。尚政は戸惑いながらも口を開ける。パンケーキの甘さが、口の中いっぱいに広がった。
「美味しい?」
「……美味しいです」
「えへへ、これやってみたかったんだ〜! どう? 甘い?」
それはどの甘さを指しているんだろうか。尚政は急に恥ずかしくなって、思わず両手で顔を覆う。
その時座っていたイスから体勢をずらしてしまったため、一花の足と尚政の足が触れ合う。その途端、尚政は慌ててイスに座り直した。
「ご、ごめん!」
「えっ、私は大丈夫だよ。先輩は平気? なんかすごい音がしたけど」
「あっ、うん、大丈夫。ちょっとバランス崩してびっくりしただけだから」
尚政が言うと、一花はまたパンケーキを食べ始めた。
気にしてるのは俺だけなのか? なんか今日は一花に振り回されてる。恋人ごっこがこんなに心臓に悪いなんて知らなかった。