背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
* * * *
帰りの時間なんて来なければいいのに……そう思いながら、いつもの場所までやって来る。
「あっ、そうだ。これ……」
一花は思い出したように、カバンからチョコレートの箱を取り出す。
「悩んだんだけど、やっぱりまた同じにしちゃった」
「生チョコ? 大好物だから嬉しいよ。ありがとう」
さっきあんなことを口走ってしまったし、少し気まずさはあったが、尚政の笑顔を見て安堵した。
「先輩、今日は制服デートしてくれてありがとう。なんか先輩との距離が縮まったみたいで嬉しかった……」
「こちらこそ。誰かにバレるんじゃないかってヒヤヒヤしたけどね」
一花は尚政の制服の裾を掴むと、そのまま彼の胸元に倒れ込んだ。
「まだ……恋人ごっこ中だよね……。今日のお別れのキスは恋人っぽいのがいいなぁ……」
「俺、そこまで高度な技術は持ち合わせてないんだけど」
「じゃあ、好きだよって言いながらキスして……」
「……まぁ一花のお願いなら……」
尚政は一花の頭を撫でた後に、優しく唇を塞ぐ。舌が何度も絡まり合い、息をするのもままならない。
唇が離れるたびに、
「好きだよ」
と囁かれ、一花は頭が沸騰しそうになる。
甘くて熱くて切ないキス……。別れ際の恋人同士ってこんな気持ちなの? この時間に終わりが来ないで欲しい……。ずっとこの時間が続けばいいのに……。
尚政の唇の感触に溶けそうになりながら、一花は心の底から願うのだった。