背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
* * * *
芽美の彼氏の翔太の家のリビングは広く、十人の男女が余裕を持って入ることができた。
三つ並んだローテーブルとダイニングテーブルにそれぞれが分かれて座ったが、一花と智絵里は宣言通り二人でダイニングテーブルを確保する。それが約束だったため、芽美も文句は言わなかった。
それぞれのテーブルが楽しそうに勉強という名のおしゃべりをするが、一花と智絵里は黙々と宿題を終わらせていく。
「文句言ってたけど、意外と捗るね」
「確かに。このまま終わらせて、残りの夏休みを遊び尽くしたいわ」
智絵里の言葉を聞き、一花はなんの楽しみもない夏休みを想像して落ち込んだ。
「ど、どうしたの?」
「……また先輩に突き放された……」
「あらま。上手くいってたのにねぇ……先輩に何かあったんじゃない? 何もなくて一花を突き放したりしないと思うけどなぁ」
確かにそうだ。あの時感じた不穏な空気は、何かのサインだったのかもしれない。ただ先輩がネガティヴに捉えてるとしか考えなかったことを後悔した。
その時、一花の隣の席に誰かが座った。二人だけと決めていたため、一花と智絵里はその人物をキッと睨んだ。
「おっと、二人とも怖い顔しないでよ」
篠田が焦ったように二人に話しかけた。
「篠田くん。何か用? 私たち二人で勉強中なんだけど」
智絵里がさらっと言うと、篠田は顔を引きつらせた。
「お前なぁ、みんな勉強中だろ」
「言ったよね、二人で勉強中なの。わかったらあっち行ってくれない?」
篠田も中等部からの内部進学組だったが、クラスが違ったため接点はなかった。一花は昨年から連続して同じクラスになったものの、そこまで仲が良いわけではなく、クラスメート程度だった。