背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
篠田は一花の方を向くと、にっこり微笑む。
「雲井さんは進んでる?」
「えっ、あっ、まぁまぁかな……」
一花が智絵里に助けを求めようとすると、篠田に前方を塞がれた。そのため一花の視界は宿題か篠田に限定されてしまう。
「そういえばさ、前に水族館で会った時に一緒にいた先輩とはまだ仲良くしてるの?」
「えっ……うん……まぁ……」
はっきり言いたいのに、先週の出来事が返事を曖昧にさせる。
「ふーん……雲井さんってさ、あの人のことがずっと好きなんでしょ?」
「な、なんでそれを……」
「なかなか返事がもらえないって聞いたよ。なんかさ、それっておかしくない? 客観的に見てさ、雲井さんあの人に弄ばれてるような気がしちゃうんだよね。だから心配なんだよ、雲井さんのことがさ」
「篠田くん! そういう言いがかりはやめてくれるかな? 一花と先輩のことに君が口出しすることの方がおかしいと思うけど」
智絵里が一花の代わりに反論する。前に智絵里とそんな話をしたばかりだったから免疫はあったが、やはり直接言われると悲しい。
私が勝手に先輩のそばにいるだけ。私と先輩のことなんだから放っておいてくれればいいのに。
「この間たまたま大学に行ったらあの先輩がいたからさ、雲井さんを振り回すのはやめてほしいって言ったんだ。でもなんかいろいろ言い返されちゃって。あの人感じ悪くない?」
篠田の言葉を聞いて、一花は何かが心に引っかかった。大学で会った……?
「篠田くん、先輩に会ったのっていつ?」
「先週の期末試験の最後の日だったかな」
「なんでそんな日に大学に行くのよ?」
「えっと……ちょっと用があって……」
「あの……他には先輩と何を話したの?」
「他に? 返事しない先輩に付き合わすのは雲井さんの時間の無駄じゃないかって言った」
「うわっ、サイテー……」
「なんで? だって向こうの都合で振り回してんだろ? だったら雲井さんはもっといい人を探した方がいいって」
あぁ、そういうことだったんだね……。やっと原因が掴めたら、少しホッとした。ただその後に怒りも込み上げてくる。
一花は篠田の方を見る。
「篠田くん、私たちのこと誤解してる。先輩からはとっくに答えはもらってる。それでも私が勝手に先輩のそばにいるだけなのに、先輩を悪く言われるのはすごく腹立たしいんだけど」
「えっ……だって……」
一花は目の前の宿題の山を片付け始める。今すぐ先輩の所に行って誤解を解かないと。
「それに私、先輩以外の人と恋愛するつもりないの。彼に振り向いてもらえなかったら独身を貫くくらいの覚悟でいるから、時間の無駄だなんて思ってないよ」
「そうそう。一花はそれくらい真剣に片想いしてるのよ。それをあんたの勝手なお節介で踏み躙らないでくれる?」
「智絵里……」
いつも一花のことを理解して応援してくれるのは智絵里と芽美だった。
智絵里は一花に笑顔を向ける。
「こいつは私に任せて行っていいよ」
一花は頷くと、翔太の家を後にした。