背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
 智絵里は腕を組むと、不愉快そうな笑顔を浮かべた。

 その場にいた全員が顔面蒼白となり、口を閉ざす。それは芽美も同じだった。

「さて……これは一体誰が計画したことなのかしら? まさかめぐたんじゃないよね?」

 智絵里に睨まれ、芽美は慌てて目を逸らす。何かあると思っていたけど、やっぱり芽美も一枚噛んでたわけね。

 となると首謀者は彼氏の翔太だろうか……。それとも、今日ここに来ている誰か。まぁ一番可能性があるとしたら……。

 その時智絵里の正面に座っていた篠田が机を叩いた。その音に智絵里は驚いて、体を震わせた。

「俺がお願いしたんだよ。雲井さんと仲良くなりたくて翔太に計画してもらった」

 篠田は眉をひそめて目を閉じると、苦しそうな顔色をして下を向く。

「篠田くん、一花のことが好きだったの?」
「去年からずっと気になってたんだ。でも雲井さん、話しかけても相手にしてくれないし、話を聞いてみたらずっと好きな奴がいるっていうし……」
「……一花のどこが好きなの?」
「かわいいし、料理が好きって共通点もあるし……」
「そのこと、一花に伝えた? 先輩の所に行く前にちゃんとアピールした?」

 篠田は智絵里に見られていることに気付き、パッと目を逸らす。

「何もしなかったんだ? それだっておかしくない? 一花はあんたの所有物じゃないのよ」
「でも……そうでもしないと雲井さん、振り向いてくれないだろ。それに誰の所有物でもない」
「……そもそも去年からっていうのが()せないのよ。つまりあんたは中等部の一花には目もくれず、高校生になってイメチェンした一花に惚れてるわけでしょ?」

 言い返せず、篠田は黙り込む。

「確かに中等部の一花は地味だったけど、そんな一花がなんとか先輩に近付こうって頑張って、そんな一花を先輩は受け入れてくれたの。私だって二人の全部は知らないけど、でもゆっくり距離を縮めている二人を応援したいって思ってる」
「……」
「あと彼氏ができたからって性格変わるような女もイライラするんだけど」

 智絵里は芽美を睨むと、口調が明らかに低くなる。

「ご、ごめーん! 悪気はなかったのよ! 篠田くんを応援したいなぁって思っちゃって」
「でも一花の気持ちを踏み躙ったわけでしょ? これはもはやパフェだけじゃ気がおさまらないから、ドリンクもつけてもらうからね」
「わ、わかりました……」

 智絵里は改めて篠田の方を見る。悪いと思っているのだろうか。先輩一筋の一花を振り向かせることは無理なことはわかっている。だから少しだけ篠田にも同情した。
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