背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
智絵里はため息をつくと、篠田の顔を覗き込む。相変わらず女子にモテそうないい顔をしていた。
「篠田くんさ、一花が好きならもっと正々堂々勝負するべきだったね」
「わかってるよ。確かにちょっとズルしたのかもしれない……」
「……一花は一花なりに一生懸命恋してるからさ、放っておいてあげてくれるかな?」
「……何もしてないのに失恋決定?」
「何言ってるの、散々妨害しておいて」
「……お前ムカつく」
「はっ⁈」
「なんでもない」
「……なんか腑に落ちないけど……まぁ仕方ないから許してあげるわよ」
篠田くんって噂で聞いていたのとは全く違うタイプじゃない。まぁ欠点がない人間なんていないし、別に私に関係ないし。
そう言いながらも、智絵里はイライラする気持ちを隠せなかった。ムカつくのはお前だ!
「私も帰る。なんかもうやってらんない」
智絵里も荷物をまとめ、重たい空気の中部屋を出た。
玄関で靴を履こうとしていると、後ろから誰かに呼び止められる。
「ちょっと待てよ」
その声の主に気付き、智絵里はため息をつく。
「……まだ何か用? あんたのせいで、イライラしてるんだけど」
篠田はリュックを背負い、スニーカーの紐を結ぶため智絵里の隣に座った。
「俺も帰る」
「……勝手に帰ればいいじゃない。じゃあね、篠田くん」
「だから待てって言ってるだろ」
「……あんたね、それが人にものを頼む態度なわけ?」
「……俺だってイラついてんだ。だから……ちょっと話を聞かせろよ」
それは一花のことだろうか。こちらとしてはもう話すことはない。
「……どうせあの場にいたくなくて出てきたんでしょ?」
「そういう空気にしたのはお前だろ」
「はぁ? そもそもの原因はあんたでしょ」
篠田は自分を落ち着かせるために一息つくと、気まずそうに智絵里を見た。
「……悪かったよ。反省してる。だからあの二人のこと、教えてくれないか?」
その表情を見て、智絵里の気持ちも落ち着いた。きっと一生懸命になりすぎたのね。若気の至りってやつかしら。
智絵里は仕方ないというように笑顔を向けると、篠田が靴を履き終えるのを待つ。
「じゃあ駅前のファミレスでパフェでも奢ってもらおうかしら」
「……またパフェ? お前って相当な甘党?」
「……嫌なら帰るよ」
「わかったよ! 奢るって!」
「契約成立ね」
智絵里がスキップしながらファミレスに向かうのを、篠田は早足で追いかけた。