背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
 尚政が到着すると、一花はベンチに座って不機嫌そうに腕を組んでいた。

 尚政に気付いた一花はベンチの左側を叩き、座るように無言の圧をかける。言われるがまま隣に座ると、一花の服装と自分の服装が全く同じで吹き出してしまう。

「一花と俺、めちゃくちゃペアコーデだよね」
「……本当だ」

 ようやく一花の表情も柔らかくなり、尚政はホッとした。

「今日ね、学校の友達の家で勉強会があったの」
「うん……」
「そこに篠田くんっていう子がいてね、前に水族館で会ったことがあるんだけど……先週先輩の所に来たでしょ?」
「……」
「本人から聞いたからわかってるよ。私のことを言われたんでしょ? でも失礼しちゃうよね、私たちのこと何も知らないのにね」

 尚政は黙って下を向いてしまう。

「あのね先輩。先輩が彼女は作らないって言ったのに、それでもいいからそばにいたいって言ったのは私だよ? もし先輩が本当に嫌なら突き放してくれていい。でも篠田くんに言われて私を突き放したのなら、私はまだ先輩のそばにいたい。だから教えて。本当はどっちだった?」

 一花は尚政の頬に手を触れる。いつも自分がしていたことなのに、いざされると少し恥ずかしい。

 尚政は両手で顔を覆う。こんなこと、言ったらおかしい。言ったらダメだ。でも……。

「ごめん……勝手だけど本当は一花にそばにいて欲しい……」
「……なんで謝るの? そう言ってくれたら私は嬉しいのに。私が愛情表現しても、先輩の自信にはならないのね……」

 困ったように笑う尚政の顔を両手で挟むと、自分の方に向かせる。

「先輩、本当は私のこと大好きでしょ?」

 一花の言葉に度肝を抜かれた尚政はただ笑うしかなかった。

「あはは、すごいドストレート!」
「笑ってないで正直に答えて」
「うん……大好きだよ」
「でもまだ……彼女を作る気にならないんだよね?」
「うん、ごめん……それにこんな後ろ向きな考えの男、普通は嫌でしょ?」
「……私は平気だよ。私はね、この先の人生で、先輩しか欲しくないの。だから一生をかけて先輩を私が前向きにしてあげる」
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