背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
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学園祭で調理部は例年通り喫茶店を出店していた。軽食とスイーツがメインで、毎年人気があった。
この学園祭が終わったら、一花は部長を任されることになっていたため、これが三年生との最後の共同作業になる。
今年のテーマは和風喫茶のため、部員たちは家にあった着物を着たり、制服の上に割烹着を重ねたりと、雰囲気に合わせていた。
一花は動きやすいように割烹着を選択していた。減っていく食材を調理室で作っては、教室へと運んでいく。
休憩に入る少し前に柴田と尚政が一緒に来店したため、柴田を知っている女子たちは喜びの声を上げた。
その騒ぎが落ち着いてから、一花は二人の元に駆け寄った。
「部長! お久しぶりです。今日は来てくださってありがとうございます」
「なかなか来られなかったからさ、一花ちゃんの卒業前には来たいなって思ってたんだ。なんか二人が上手くいってるみたいで嬉しいよ〜」
柴田がニヤニヤしながら一花と尚政を交互に見たものだから、二人は顔を真っ赤にする。
「あの……部長には本当に感謝してます。あの時のことがなかったから、今こんなふうになれてるかわからなかったし……だからありがとうございます!」
一花の言葉に満足そうに頷くと、また後輩たちに絡まれてしまった。
そのタイミングで尚政は一花に話しかける。
「一花は着物じゃないの?」
「動きやすいように割烹着にしちゃった」
「なんだ、残念。見たかったなぁ、一花の着物姿」
「……じゃあいつか先輩だけに見せるね」
「うん……楽しみにしてる。今日は自由時間はある?」
「あと三十分で休憩なんだけど、それまで待っててくれる?」
「了解」
尚政に笑顔を向けられ、一花は胸が熱くなった。早く二人きりになりたいな……触れたい欲求をグッと抑えて、一花は裏方の仕事に戻った。