背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
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柴田が先生方への挨拶周りをするというので、尚政は一人で外へ出た。
一花からは、仕事が終わり次第連絡が来ることになっていた。それまでは一人でフラフラすることにする。
なんとなく歩いていると、自然と足は駐輪場へと向かう。ここに来ると、一花との思い出が蘇ってくるようだった。
ここでの学生時代はそこまで良い思い出はなかったはずなのに、一花と過ごした高校三年の一年だけは違った。楽しかったし、温かい気持ちになれた。
しかしその時目の前に現れた男子生徒を見て、尚政は大きなため息をつく。
「あのっ……俺のこと覚えてますか?」
「……覚えてるよ。あの時はかなり不快な思いをさせられたしね」
篠田は顔を歪めると、そのまま頭を下げた。
「あの時は……何も知らないのに失礼なことを言ってしまいすみませんでした!」
予想外の態度に尚政は驚いた。あんなに自信満々な様子で俺を貶した人間とは思えなかった。何が彼を変えたのだろうか。
「まぁ……もう過ぎたことだし」
尚政は苦笑いを浮かべつつ、篠田を責めることはしなかった。篠田は頭を上げたが、目線は下を向いたままだった。
「……雲井さんの友達から話を聞きました….。二人の事情を知らずに俺、自分勝手なことばかり……本当にすみませんでした」
「……君は一花が好きだったんだろ? 今もまだ好きなわけ?」
篠田は首を横に振った。
「智絵里に……雲井さんの友人にかなりグサッとくることを言われて……。今は二人のことを応援してます」
グサッとくること? 何を言われたのか想像はつかないが、相当ショックなことを言われたんだろう。
「ずっと謝りたかったので、今日お会い出来て良かったです」
篠田は尚政にお辞儀をすると、走り去っていく。
……そんなに悪い子ではないみたいだ。でも一花との関係がうまくいっているからそう思えるだけ。もしあのまま一花と離れていたら、相当恨んでいたはずだ。
再会がこのタイミングで良かった。