背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜

* * * *

 柴田が先生方への挨拶周りをするというので、尚政は一人で外へ出た。

 一花からは、仕事が終わり次第連絡が来ることになっていた。それまでは一人でフラフラすることにする。

 なんとなく歩いていると、自然と足は駐輪場へと向かう。ここに来ると、一花との思い出が蘇ってくるようだった。

 ここでの学生時代はそこまで良い思い出はなかったはずなのに、一花と過ごした高校三年の一年だけは違った。楽しかったし、温かい気持ちになれた。

 しかしその時目の前に現れた男子生徒を見て、尚政は大きなため息をつく。

「あのっ……俺のこと覚えてますか?」
「……覚えてるよ。あの時はかなり不快な思いをさせられたしね」

 篠田は顔を歪めると、そのまま頭を下げた。

「あの時は……何も知らないのに失礼なことを言ってしまいすみませんでした!」

 予想外の態度に尚政は驚いた。あんなに自信満々な様子で俺を(けな)した人間とは思えなかった。何が彼を変えたのだろうか。

「まぁ……もう過ぎたことだし」

 尚政は苦笑いを浮かべつつ、篠田を責めることはしなかった。篠田は頭を上げたが、目線は下を向いたままだった。

「……雲井さんの友達から話を聞きました….。二人の事情を知らずに俺、自分勝手なことばかり……本当にすみませんでした」
「……君は一花が好きだったんだろ? 今もまだ好きなわけ?」

 篠田は首を横に振った。

「智絵里に……雲井さんの友人にかなりグサッとくることを言われて……。今は二人のことを応援してます」

 グサッとくること? 何を言われたのか想像はつかないが、相当ショックなことを言われたんだろう。

「ずっと謝りたかったので、今日お会い出来て良かったです」

 篠田は尚政にお辞儀をすると、走り去っていく。

 ……そんなに悪い子ではないみたいだ。でも一花との関係がうまくいっているからそう思えるだけ。もしあのまま一花と離れていたら、相当恨んでいたはずだ。

 再会がこのタイミングで良かった。
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