背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜

 なんて不思議。あの時憧れた先輩が、こうして私の隣にいて、私を見てくれている。それだけでこんなにも心が満たされる。
 
「せっかく校内を自由に歩けるしさ、ちょっと思い出巡りでもしていく? 最初に出会った医務室からスタートしてさ」

 尚政が前方に見えた医務室を指差すと、一花の頭にはあの日声をかけられた時のことが鮮明に蘇る。

「医務室……あの時から先輩は優しかったね」
「だってあの時の一花ってば、絶望感漂わせていたからねぇ」

 あの時と同じ場所に立ち、一花は空を見上げた。

 転んだことが恥ずかしくて落ち込んでいた時に、先輩が頑張ったねって頭を撫でてくれたから元気になれた。そして先輩に恋をした……。

「実を言うとね、先輩にもらった絆創膏を今も使わずに宝物にしてる」
「……マジで? 一花ってばどんだけ俺を好きなの」
「……わかってるくせに」

 医務室前を抜け、図書館、調理室、一花の教室……思い出の場所を巡りながら、最後に校舎と校庭の間の生垣の元へ辿り着く。
 
 尚政と一花は芝生に座ると、懐かしい気持ちになった。息を切らしながらここへ座った時、一花の心臓は激しく鼓動していたことを思い出す。

「ここで初めて一花に生チョコもらったんだよね。あの時まだ中二だったよね。なんか今考えるとすごい……」

 すると一花は持っていたポーチの中から(おもむろ)に小箱を取り出す。

「た、たまたまなの! まさかここに来るとは思っていなくて……」
「生チョコじゃん。なんてタイムリーな」

 尚政は生チョコを口にして笑顔になる。それを見て一花も嬉しくなった。

「……あのね、最近思うの。今の私が中学生と恋愛出来るのかなって……きっと無理。だから先輩が私のことを(ないがし)ろにしないで、ちゃんと向き合ってくれたことに本当に感謝してる」
「まぁ……なんだろう……なんか一花って誰とも違う感じなんだよね。ただの中学生じゃないというか……それも違うかな……」

 尚政は一花の目を真っ直ぐ見つめると、そっと髪に触れる。

「きっと最初から一花に惹かれていたのかもしれないね」

 尚政は一花にキスをする。すると一花はクスッと笑う。

「チョコの味がする……」
「あっ、そうだ、食べちゃった」

 一花は尚政の顔を引き寄せ自分からキスをする。私ってば、学校でなんでことをしているのかしら。でも止められない。

「もっとちょうだい……」

 尚政の舌が絡み、一花は腰が砕けそうになる。好きな人とするキスはなんて気持ちがいいんだろう……。

「先輩、大好きだよ……」

 一花は尚政の首に手を回す。彼の香りに包まれ、夢の世界に堕ちていくようだった。
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