背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
* * * *
学祭帰りの人々が駅に向かって歩いている。その中を歩いていると、柴田がため息をついてから尚政の顔を見た。
「お前さ、一花ちゃんとの距離感ヤバくない?」
「ヤバいって何が?」
「二人が濃厚キスしてるのがたまたま窓から見えちゃってさ、あれで付き合ってないとかおかしいだろ」
見られていたと思うと、尚政は急に気まずくなった。柴田が見てたってことは、他にも見られていた可能性はある。一花が学校で何か言われたりしないといいのだが……。
「お前さ、自覚してるかわかんないけど、一花ちゃんのこと大好きだろ」
「……言われなくても十分自覚してるよ」
「それなのに付き合ってないとか言うのか? もうはっきりさせちゃえよ」
「……一花が二人の関係に名前はつけなくてもいいって言ってくれたんだよ」
「それはお前のためにだろ? なんか本当に健気だよなぁ。まぁ二人のことに口は出さないけどさ。今の状態で一花ちゃんが目の前から消えても、お前はきっと裏切られたって落ち込むと思うぞ。どっちにしたって傷付くなら、ちゃんと名前を付けて、正々堂々と付き合って、やることやった方がいいって俺は思うけどな」
柴田の言うことは正しい。一花の気持ちに甘えて、曖昧にしているのも確かだった。
今一花がいなくなったら……そんなことを考えるのは怖い。でも名前がないからこそ、やっぱりなって諦められると思うんだ。
「はっきり聞くけど、千葉って童貞だよな?」
「……うわっ、ドストレート」
「心配してやってんだよ。これから先どうなるかわからないから、いろいろ調べて予習しておけよ。一花ちゃんだって初めてだろうからさ」
「ちょっ……それはないよ。今したら犯罪だし」
「とか言いつつ、結構我慢の限界まで来てるだろ? 一花ちゃんお前に恋してるからか、かなり大人っぽくなったし。あれはモテると思うぞ」
「……」
「まぁ別に今とは言ってない。まだ先の話だけど、あんなイチャイチャしてんだから、いつどうなってもおかしくないぞ」
本当のことを言えば、犯罪だと言い聞かせることで欲望を抑えている部分もあった。いやらしい目で一花を見てる時があるなんて、彼女には知られたくない。
でも一花がこのまま俺のそばにいてくれたら、いつかは二十歳を越える。その時俺はどうなっちゃうんだろう。ふと頭を過ぎる一花の姿を思い出しては体が疼く。一花を自分のものにしたくなるなんて、口が裂けても言えない。
都合が良すぎるよな……そう思うのに、柴田の意見を肯定してしまう自分がいた。