背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
ダイニングバー・オードリー
その日尚政は尋人に呼び出されていた。スマホには尋人から指定された『ダイニングバー・オードリー』の住所と地図が送られてきたため、大学が終わると同時にバーへ向かう。
スマホのナビに案内してもらいながら店を探して行くと、ステンドグラスが施されたネイビーの扉が現れる。それを見て尚政は一瞬凍りつく。こんな店、今まで入ったことないんだけど……。
恐る恐るドアを開けると、暗い照明の中に煉瓦の壁が浮かび上がる。所々に置かれたアンティークの家具が、落ち着いた雰囲気を引き立てていた。
店内は開店前のためか静けさに包まれていたが、カウンター席に座る尋人を見つけると、ホッとしたように駆け寄る。
「思ったより早かったじゃないか」
「まぁね。ナビ機能って最強」
「確かに」
尋人の隣に座ると、尚政は店内をぐるりと見回した。
「すごいオシャレな店だよねぇ。最近開店したの?」
「そう、実は今月開店したばかりなんだ」
「やっぱり。新しい匂いがするもんな。ブルーエングループの系列?」
ブルーエングループは様々な飲食チェーン店を展開している会社だった。尋人の父はその会社の社長で、尋人自身もそこへの就職が決まっていた。
「ブルーエンとは違うんだけど……まぁ関係なくもないっていうか」
尋人が天井を見ながら言葉を濁す。するとカウンターの奥の扉から一人の初老の男性が姿を現した。その人物を見た途端、尚政は嬉しそうに声を上げる。
「藤盛さんじゃん!」
「お久しぶりでございます、尚政さん」
藤盛と呼ばれた銀髪の男性はにこやかに挨拶をした。
「ってことは、もしかしてこの店って……」
「そっ、藤盛さんの店だよ。ずっとやりたいことがあるって言ってたけど、それがこの店だったんだってさ」
「へぇ……」
「ちなみに店名は、藤盛さんが大好きな女優さんの名前らしい」
藤盛は長い間、尋人の父親の秘書をしていた。しかし昨年、やりたいことがあると言って早期退職をしたのだ。
尚政の父の兄が尋人の父親だったため、尚政自身も藤盛とは面識もあり、昔からいろいろ話し相手になってもらったこともある。
「そっか〜! 藤盛さん、夢叶えたんだ! すごいなぁ」
「いえいえ、社長が私のわがままを聞いてくださったから叶ったようなものですから……。ところで何か飲まれますか?」
「じゃあ俺はソルティドックで」
「う〜ん、じゃあ俺も同じので」
「かしこまりました」
手際良くカクテルを作る藤盛に尚政が感心していると、尋人が口を開いた。
スマホのナビに案内してもらいながら店を探して行くと、ステンドグラスが施されたネイビーの扉が現れる。それを見て尚政は一瞬凍りつく。こんな店、今まで入ったことないんだけど……。
恐る恐るドアを開けると、暗い照明の中に煉瓦の壁が浮かび上がる。所々に置かれたアンティークの家具が、落ち着いた雰囲気を引き立てていた。
店内は開店前のためか静けさに包まれていたが、カウンター席に座る尋人を見つけると、ホッとしたように駆け寄る。
「思ったより早かったじゃないか」
「まぁね。ナビ機能って最強」
「確かに」
尋人の隣に座ると、尚政は店内をぐるりと見回した。
「すごいオシャレな店だよねぇ。最近開店したの?」
「そう、実は今月開店したばかりなんだ」
「やっぱり。新しい匂いがするもんな。ブルーエングループの系列?」
ブルーエングループは様々な飲食チェーン店を展開している会社だった。尋人の父はその会社の社長で、尋人自身もそこへの就職が決まっていた。
「ブルーエンとは違うんだけど……まぁ関係なくもないっていうか」
尋人が天井を見ながら言葉を濁す。するとカウンターの奥の扉から一人の初老の男性が姿を現した。その人物を見た途端、尚政は嬉しそうに声を上げる。
「藤盛さんじゃん!」
「お久しぶりでございます、尚政さん」
藤盛と呼ばれた銀髪の男性はにこやかに挨拶をした。
「ってことは、もしかしてこの店って……」
「そっ、藤盛さんの店だよ。ずっとやりたいことがあるって言ってたけど、それがこの店だったんだってさ」
「へぇ……」
「ちなみに店名は、藤盛さんが大好きな女優さんの名前らしい」
藤盛は長い間、尋人の父親の秘書をしていた。しかし昨年、やりたいことがあると言って早期退職をしたのだ。
尚政の父の兄が尋人の父親だったため、尚政自身も藤盛とは面識もあり、昔からいろいろ話し相手になってもらったこともある。
「そっか〜! 藤盛さん、夢叶えたんだ! すごいなぁ」
「いえいえ、社長が私のわがままを聞いてくださったから叶ったようなものですから……。ところで何か飲まれますか?」
「じゃあ俺はソルティドックで」
「う〜ん、じゃあ俺も同じので」
「かしこまりました」
手際良くカクテルを作る藤盛に尚政が感心していると、尋人が口を開いた。