背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
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大学デートという言葉に浮かれてしまったが、一花は鏡の前に立つと不安でいっぱいになる。
大学生の女の人ってみんな大人っぽいよね。どんな服を着たら先輩の隣に立っても違和感なくいられるだろう。やっぱりメイクはきちっとした方がいいのかな。黒髪でも平気?
悶々と悩みながらスマホで女子大生について調べてみたりするが、たくさんあり過ぎて答えに辿りつかない。
その時ドアをノックする音がし、妹の二葉が入ってくる。鏡の前で項垂れている一花を見て吹き出す。
「何やってんの、お姉ちゃん」
「ねぇねぇ、イケてる女子大生ってどんな感じかなぁ⁈」
二葉は一花の部屋の本棚に辞書を戻すと、ニヤニヤしながら一花を見た。
「彼氏とデート? スマホで調べればいっぱい出てくるんじゃない?」
「いっぱいあり過ぎてわからないんだよ……」
「まぁ、確かに。服はいつも通りでいいんじゃない? 頑張り過ぎても、服に着られてる感じになったら高校生ってバレるじゃない? それは嫌なんでしょ?」
「うん」
「あとはメイクすれば、黒髪ロングもかわいくなると思うけど」
「さ、さすが二葉……」
二葉は一花と同じ海鵬の高等部の一年だが、姉と違って社交的なタイプだった。そのため、一花と姉妹だと言うと驚かれることもあった。
ショートカットでボーイッシュな二葉は陸上部の長距離の選手のため、一花よりも筋肉がしっかりついている。
「で、どこに行くの?」
「海鵬大学の学祭」
「ふーん…… 」
二葉は一花のベッドに腰掛ける。
「お姉ちゃんさ、たぶん大丈夫だと思うけど、騙されたりしてないよね?」
一花は驚いて目を見開く。やっぱり私ってそういう風に見えてしまうのだろうか。
「海鵬に入ってからさ、お姉ちゃんの話を聞いた時はびっくりしたよ。家でそんな話しないじゃない? 私は相手の人を知らないからさ、ちょっと心配になるわけ。でも先生たちに聞いたら良い生徒だったって言うし、何よりお姉ちゃんがぞっこんだしね。信用してないわけじゃないからさ」
「……ちゃんと付き合うってなったら、二葉にも紹介するからね!」
「……それも問題発言だけど。まぁお父さんお母さんには内緒にしておくし」
二葉はベッドから立ち上がると、一花の部屋から出て行く。その背中を見送り、一花は力が抜けたように肩を落とす。
どうしてかな。やっぱり年齢? それとも私の性格? 私たちなりにお互いを想い合って過ごしているんだけどな……。