背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
 いつものように駅で待ち合わせをするが、普段違って今日はどことなくソワソワする。大学という尚政の生活している場所に入ることが初めてで少し緊張していた。

 先輩にはどういう友達がいて、どんな風に生活しているんだろう。自分の知らない先輩を知ることは、楽しみでもあったが不安も大きい。

 一花はベージュの花柄のワンピースに、ざっくりとした同色のカーディガンを羽織る。髪は片側に集めて、ゆるっとした三つ編みを結った。おかしなところがないか、何度も服や髪型を確認する。左手の薬指にはめた指輪が目に留まると、少しだけホッとする。

 すると背後から伸びてきた腕が、一花の両頬をぎゅっと挟む。

「何をそんなにソワソワしてんの? 百面相みたいで面白かったけど」

 手を離して正面に回った尚政はドキッとした。

「おっ、今日はメイクしてるの? なんかいつもより大人っぽく見える」

 一花は急に恥ずかしくなって下を向く。

「大学行くの初めてだし、先輩の隣にいて違和感ないようにしたいなって思って……」
「いつも通りでも違和感ないけど」
「本物の女子大生には、どうやったって勝てないもの」
「何に勝つのさ」
「お、女の魅力……とか?」

 言った途端に尚政が吹き出す。

「大丈夫大丈夫。一花は十分かわいいよ」

 尚政に手を引かれて改札を抜けて行く。先に一花がエスカレーターに乗り、その後ろに尚政が付く。身長がほぼ同じになるこの高さが一花は好きだった。

「本当はちょっとドキドキしてるんだ……」

 一花はエスカレーターを降りると呟いた。尚政は返事の代わりに一花の手を握り返すと、ただ耳を澄ます。

「私の知らない先輩の生活を知れるのは嬉しいんだけど、かわいい女子大生がたくさんいるんだろうな〜とか、会話に入れなくて疎外感を味わうんじゃないかとか、とにかく不安で仕方ないの」
「……一花が不安って珍しいね。俺の後ろ向きがうつってない?」
「私元々後ろ向きだし、人見知りだし……でも今日は更に不安要素満載」

 一花はため息をついて、再び下を向く。先頭車両のドアの位置まで歩いて行くと、尚政はニコニコしながら一花を見ていた。

「最近は俺ばっかり不安になってたからさ〜、なんか一花もって思うと安心するねぇ」
「そうなの?」
「そうなの。まぁ確かにそういう会話もあるかもしれないけどさ、俺の場合はほぼ社交辞令。特別なのは一花だけだから安心してよ」

 最近先輩がすごく頼もしい。大好きな先輩のときめきポイントが増えて、私は呼吸すらもままならない。
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