背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
* * * *
尚政は一花の思いがけない言葉を聞いてから、頭の中でいろいろと考えていた。
そういえば前に一花も後ろ向きだった言ってたっけ。でも一緒にいる一花はいつも明るくてそんな素振りは全く見せなかったから、つい甘えてしまってた。
でもそうだよな。明るいだけの人間なんているわけない。甘えるだけじゃなくて、俺が一花のことを受け止めて、安心させないと。
大学構内に入るや否や、尚政は何人もの学生に話しかけられる。
「千葉が学祭に来るなんて珍しいじゃん」
「まぁ最後だし」
「千葉くん! 私たち向こうでわたあめ売ってるから来てよ〜」
「時間あったらね」
「おいおい千葉が女連れだぞ! まさかお前の彼女?」
大学に一花と行けば、言われるだろうと予想していた言葉だった。返す言葉も決めていた……というか曖昧にやり過ごそうと思っていたはずなのに、先程の一花の言葉を思い返し、違う言葉が頭を過ぎる。
隣の一花の顔を見ると、尚政がどう答えるのか心配なのか、案の定不安そうな表情を浮かべている。
尚政の手をギュッと握る一花が愛おしく感じる。今一花を守れるのは俺だけなんだよな……そう思うと不思議と強くなれる気がした。
声をかけてきた同級生の顔を見ながら、
「そうだよ」
と言い放つ。
「えっ……マジで?」
言われた同級生は、慌てて周りにいた友人たちに声を掛けに行く。
「せ、先輩……?」
口をパクパクさせながら驚きを隠せない一花に、尚政は笑いながら説明をした。
「前に柴田が『千葉は他校に彼女がいるんだ』って話をしてさ。だけどそれが嘘なんじゃないかって疑われてたんだよね。でも今日ちゃんと実証出来た感じ?」
「私、今日はちゃんと彼女なの?」
「嫌?」
尚政は微笑んだ。それだけで一花の胸は高鳴る。
一花は力いっぱい首を横に振ると、嬉しそうに尚政に向かって笑いかける。
「……すごく嬉しい。恋人ごっこ以来の正式な彼女だね」
「だね」
尚政はドキッとした。やっぱり一花にはそうやって笑っていてほしい。
いつもはただ義務的に来るだけの大学なのに、一花がいると少し景色が変わって見える。無機質だった世界に色がついたように、鮮やかに見えた。