捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~
「ケチ」

ケチとか言われても困る。
しかし彼はそれ以上迫る気はないらしく、ドアノブに手をかけた。

「じゃあ明日。
おやすみ」

彼が出ていき、パタンと閉まったドアを見つめる。

「……なんか、疲れた」

これは、ハワイまできて挙式直前だった彼と別れたからだけの疲れとは思えない。
もしかして私は、神様からとことん見放されているんだろうか。

「……お風呂入って寝よ」

うん、それがいい。
これは全部夢で、目が覚めたらマンションの、自分のベッドの上だ。
きっとそうに違いない。
そう信じて寝たんだけど……。



「……夢じゃない」

目が覚めたら広いベッドの上だった。
自分のマンションとは言わない、せめて安ホテルの硬いベッドの上であってほしいなどという私の願いは無残に打ち砕かれた。

「いや、顔を洗って完全に目が覚めたら……って可能性はないよね……」

我ながら往生際の悪い自分に自嘲し、洗面所へと向かう。
しかし通過しようとしたリビングで信じられないものを見て、足が止まった。

「おはよう」
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