捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~
「そうか?
李依は可愛いからいくら言っても言い足りない」

しれっと言って和家さんが離れる。

「日が暮れて冷えてきたな」

「ありがとうございます」

彼が私に上着をかけてくれた。
それに素直にお礼を言う。
和家さんはなにかと迫ってくる以外は、紳士的でとても優しい。

船は進路を変え、港へと戻っていく。
今度は目の前にワイキキの夜景が広がった。

「そろそろだ」

和家さんの声を合図にしたかのように、花火が上がりだす。

「凄く素敵……!」

「喜んでくれたんならよかった」

毎日和家さんが私の相手をしてくれたおかげで、あの人のことはほとんど思い出さずに済んだ。
それに、こんな素敵な思い出まで。

「その。
……ありがとうございます」

彼に出会わなければきっと、ハワイは私にとって最悪の地になっていただろう。
でも今は、機会があったらあらためて来たいと思える。

「礼なんていい。
僕はただ、李依を心から笑わせたかっただけだ」

人差し指で眼鏡のブリッジを押し上げた和家さんが、私から視線を逸らす。
最初は、神様はとことん私を見放したんだと思ったが、今なら彼に出会わせてくれて感謝したいくらいだ。
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