捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~
「後悔、しないか」

「あの人を忘れられるなら、しません」

「わかった」

振り返った彼が、私を抱き締める。

「李依の中からアイツを追い出して、僕でいっぱいにしてやる」

頬に手が触れ、見上げるとレンズ越しに目があった。
顔が近づいてきて目を閉じてすぐに、私の唇に彼の唇が触れた。

……和家さんになら抱かれていい。

それでも、心の内に感じるこの気持ちには気づかないフリをした。
まだ私の左手薬指には未練の印が嵌まっている。
これを外せないうちは、次の恋になんて踏み出せない。

シャワーを浴びたあと、和家さんからベッドに押し倒された。

「なにも考えずに、僕に溺れればいい」

和家さんの唇が重なり、私を貪っていく。
彼に身を任せ、そして――。

「李依」

優しく落とされ続ける口付けが心地よくて、何度も絶頂を味わわされて疲れ切っている身体は、次第に眠りへと落ちていく。

「今は……けど。
……頃に……行く。
だから……くれ」

和家さんがなにか話しているが、眠すぎてところどころしか聞こえなかった。
聞き返そうにももう身体は言うことを聞かない。
そのまま意識は帳の向こうに閉ざされた。
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